1月10日、携帯電話大手3社が発表した昨年12月の契約状況によると、新規契約から解約を引いた純増数でNTTドコモが27万9100件となり、2年ぶりに首位を奪還。一方、2位のソフトバンクは22万4300件で23ヵ月間守り続けた首位の座をドコモに明け渡し、KDDI(au)はわずかの差で3位に転落した。
番号持ち運び制度(MNP)では依然としてドコモだけが転出超過に陥っているもののマイナス幅は確実に縮小。昨年9月に取り扱いを始めたiPhоneの販売効果により、長らく続いた“ひとり負け”の状況を脱しつつある。
逆に今年、「ソフトバンクの失速が始まる」とみるのは通信ジャーナリストの神尾寿氏だ。
「昨春、ソフトバンクは全国約2700店のソフトバンクショップに通達を出しました。内容は、成績の悪い店舗を容赦なく切り捨てるための厳格なペナルティ制度の導入。これにより、この1月から廃業に追い込まれるソフトバンクショップが出ている可能性があります」
ソフトバンクショップを運営しているのはソフトバンクと販売代理契約を結んでいる販売会社。一社で数十店を構える大規模な企業から、地域に1、2店舗しか持たない零細企業までさまざまだ。そのすべてを網にかける新ペナルティ制度は、昨年7月からスタートしているのだという。その中身とは?
「ソフトバンクが契約ノルマを各販売会社に課し、3ヵ月に1回、査定を実施するというもの。1回目の査定期間は7月~9月で、2回目が10月~12月。今は3回目の査定期間に入っています。
店側にとって厳しいのがその査定方法。一度でもノルマを達成できなければ、その販売会社はキャリアから支給されるインセンティブ収入が20%削減されます。さらに3ヵ月後の2度目の査定で契約獲得状況が改善されていなければ、販売代理契約が打ち切られてしまいます。
つまり、2度連続でノルマ未達に陥った店は“必要なし”と判断され、事実上の廃業を余儀なくされる……。不採算店を切り捨て、浮いたコストを繁盛店に配分する店舗運営の効率化が目的でしょうが、過去、これだけ厳格なルールが課された例はありません」
販売会社にとっては非情とも思える新ペナルティ制度。
「査定は昨年9月末、12月末と2度実施されており、すでに“レッドカード”を突きつけられた販売会社は存在していると考えられます。しかし、それ以前に契約数に応じてキャリアから支給されるインセンティブは店舗側にとっては主要な収入源。一度のノルマ未達で20%削減されると販売会社にとっては死活問題となりかねませんね」(神尾氏)
IT業界の専門誌記者が続ける。
「1度目の査定が行なわれた昨年9月以降、沖縄、山口、北海道、岐阜、愛知、島根などで20店舗近くのソフトバンクショップが閉店しました。同期間の閉店数は他社と比べても突出しています」
そして今年、ソフトバンクショップの店舗閉鎖は査定があるたびに加速度的に増えていくという。
「ソフトバンクが08年に初めてiPhоneを発売してからこの業界はスマホブームに沸きましたが、今や需要も一巡し、買い替えサイクルも長くなる一方。業界内では『今年の春商戦でスマホ特需も終焉(しゅうえん)を迎える』ともささやかれています。市場が飽和するなか、今後、ノルマを達成できずに契約を解除されるソフトバンクショップが続出することが予想されます」(前出・神尾氏)
一方でユーザーにとっても見過ごせない問題がある。
「一度、査定でノルマ未達と判断された店舗は、契約解除を免れるために次の3ヵ月間のペナルティ期間は契約獲得に躍起になるでしょう。特に、データ商材の抱き合わせ販売やムダなオプション加入の押しつけといった強引な販売手法がこれまで以上に横行する恐れがあります」(神尾氏)
売り上げの伸びない販売店を容赦なく切り捨てる一方、海外では買収を進めるなど相変わらず攻めの経営の孫正義社長。この新ペナルティ制度は吉と出るか、凶と出るか。
(取材・文/興山英雄)