ソフトバンク孫氏「No1の裏にビッグデータ」 クラウド活用術をオラクルのイベントで披露

ソフトバンクの携帯電話が5年連続で純増トップなのは、頭を使っているから――。ソフトバンク社長の孫正義氏がビッグデータを活用した戦略の一端を、オラクルグループのイベントで披露した。
4月9日、六本木のホテルで開催された「Oracle CloudWorld Tokyo」。衛星中継で登場した米オラクルのラリー・エリソンCEOに紹介され、基調講演を行ったのがソフトバンク社長の孫正義氏だ。ソフトバンクにおけるビッグデータの詳細な活用法が初めて披露された。
ビッグデータを活用する意味は、「少ない設備投資金額で、より大きな効果が得られること」(孫氏)。そのためには、ビッグデータの科学的検証が有効だという。
ソフトバンクが発表した新30年ビジョンでも「クラウドを人類最大の資産にしたい」(孫氏)という思いが鮮明に出ていた。「人に提供する前に自分自身で活用しないと、よさがわからない」(同)との考えの下、それを実践していったというのだ。
孫氏が具体的な活用事例として3点紹介したのが、「電波改善」と「ツイート解析」「行動ターゲティング」だった。
■電波接続率を効率的に改善
まず、ソフトバンクがビッグデータ活用で改善を進めたのが電波接続率だ。
「ただ、やみくもにあちこちに鉄塔を建てて設備を入れればいいわけではない。少ない設備投資で、より速く、電波接続率でナンバーワンになるためには、どうしたらよいのかということでビッグデータを自ら活用した」(孫氏)
ソフトバンクの資本が入っているグループ1000社は、ビッグデータの宝庫という。その1000社の中から2社のアプリを選び、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIの携帯3社のスマホユーザーがネットにアクセスし、つながったか、つながらなかったかをチェックしたという。使ったのはヤフーの防災速報と、Agoopのラーメンチェッカーのアプリ通信ログ。
10秒間以内につながらなければ、パケづまりと判断した。あと1本追加の鉄塔を造るときに、都市や郊外などどこに造ればよいのかを容易に判断できたという。
「その結果、われわれのパケットの接続率は96.7%に上昇し1位になったわけです。これは月間1.9億回、実際につないでみて、つながったかつながらなかったかを調べてみたもの」。孫氏は直近2カ月近くかけておこなった調査内容(2月10日~4月7日実施)に胸を張る。
■同じ「iPhone5」同士ではどうなった?
ただ、機種によって接続率は異なるものだ。そこで同じアイフォーン5(iPhone5)同士で調査したらどうだろうか。
「昨年、『鍾乳洞でもつながるのはどっちだ』というテレビ宣伝をされて、ものすごくくやしい思いをした。テレビを見るたびに『くそー!』と頭に来てたわけですが(笑)。それが、実は今年に入り、全国的にみて電波がよりつながるのはわれわれで、KDDIさんに勝ったということがはっきりした」
同じアイフォーン5で比較した場合でも、KDDIは3Gのみで使えるエリアが多く、通信速度の速いLTEではソフトバンクのほうが足元で大きく上回っている、と孫氏は紹介した。
さらに時間帯別でも調べたところ、全体的に他社を上回ったものの、朝の通勤ラッシュだけ2位だった。「これはいかん!」ということで、朝の通勤ラッシュ時間帯にターゲットを絞り、どの駅のどこなのか、問題エリアをビッグデータの活用により見つけ出そうとしているという。
■初公開!「ツイート」8200万件解析で支持率探る
2つめの活用事例がツイート解析だ。
実は、ソフトバンクは、これまでに8200万件のツイートなどの投稿を解析している。「こんなことをやっているのは、日本ではわれわれだけでしょう」(孫氏)。
ソフトバンクについてのツイートが、ポジティブか、ネガティブかを解析する。その結果をみて、反省したり、新たなイベントを打ったりするなど、行動に移しているのだという。
「ポジティブなツイートが5割を超えているのはいつか、ネガティブなツイートが5割を超えているのはいつか、これをずっと毎日見ているわけです。ソフトバンクの支持率がどうかを、毎日見ている。このことは今まで秘密にしていたのですが、今日が初めて、本邦初公開」(孫氏)。
■おカネより頭を使って、純増ナンバーワンに
携帯電話を売り込む際などにも、グループ会社の資産を使った「行動ターゲティング」の手法が活用されている。
「ヤフージャパンにはさまざまなビッグデータがある。アクセスのエリアや端末の種類、利用者の性別、年齢、検索の履歴、閲覧の履歴、広告表示の履歴など。これを全部ビッグデータとして解析しながら、月間500億PV(ページビュー)の行動履歴を解析し始めている」(孫氏)という。
圧倒的なPV数を誇るヤフージャパンをグループに持つ強みが絶大といえる。これを解析しながら、顧客にどのように効果的な広告を出すかがポイントとなる。
「広告のキャンペーンをピンポイントで行う。たとえば、ドコモのユーザーで10代の女性、さらにギャラクシーのユーザーにだけメッセージを出したいということができる。そんなことを他社がやっていると思いますか。やっていないでしょう」(孫氏)。
携帯電話の純増ナンバーワンは、けっして偶然に、たまたまラッキーでは得られたものではない、というのが孫氏の主張だ。「ソフトバンクが純増ナンバーワンを5年間続けているのは、お金を使っているのではなく、頭を使っているからなんです」。孫氏はそう言い切った。
■機種を乗り換えそうなユーザーをターゲットに広告配信
他社の携帯電話のユーザーだけにピンポイントで広告を送るということも、ソフトバンクは考えた。「同じグループ会社でもヤフージャパンに広告を出すとなると、おカネがかかる。広告に使うお金を最小限にするには、そろそろ乗り換えられそうな機種を使っているお客さんにだけ送ればよい。そうすれば、少ない予算で最大の効果を得られる」(孫社長)。
行動ターゲティングの活用、バナーへのクリック誘導、そして電子クーポンを提供する仕組みづくりを徹底。この電子クーポンをモバイル向けに提供した結果、携帯電話を売り込むサイトに、目標の2.5倍の集客ができたという。
オラクルのラリー・エリソンCEOとは旧知の間柄という孫氏。「アップルのスティーブ・ジョブス氏との出会いも、エリソンの自宅でだった」と振り返る。「ソフトバンクはオラクルの日本最大のパートナー」と語り、最後に「クラウドを人類最大の資産にしたい」と語って、講演を終えた。

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