ソフトバンク物流参入へ、照準は「アマゾン」

デジタル革命の到来で、高度なIT人材は引く手あまた。メルカリに代表される新興IT企業や、その他多くの事業会社は、成長の鍵をにぎる高度IT人材を血眼になって求めている。週刊ダイヤモンド2月23日号では「IT人材の採り方・育て方」を特集。IT人材獲得合戦の最前線を追った。

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 ソフトバンクが、今秋をめどに物流事業への参入を検討していることが本誌の調べで分かった。

 その陣頭指揮を執るのは、「Pepper(ペッパー)」などロボットの開発・販売事業を展開しているソフトバンクロボティクスの顧問兼ロジスティクス本部長である松浦学氏だ。あるソフトバンク関係者によれば、「今夏までに、物流とITの知見を併せ持つような高度人材を約80人採用する計画で動いている」と打ち明ける。

 日本の物流業界は、ネット通販市場の成長で物量が急増しているが、慢性的な人手不足とピンハネが横行する多層下請け構造に苛まれている。物流クライシスの深刻さは尋常ではない。

 にもかかわらず、ソフトバンクが勝算ありと踏むのは、得意とするロボティクス技術を使えば、日本の物流のボトルネックを解消できると考えたからだろう。

 何を隠そう、松浦氏は、家具大手ニトリホールディングスの物流子会社、ホームロジスティクス社長を務めていた人物。ニトリの物流施設へロボット技術の導入を決めた推進役である。例えば、川崎市内にあるニトリのネット通販向け倉庫を「ロボット倉庫」に切り替えたり、自動搬送ロボット「バトラー」を導入して物流倉庫の入出庫業務を自動化したりした。

 ソフトバンクは松浦氏を招聘したのに続いて、テック人材を大量に採用し物流サービスの開始に備えようとしているわけだ。

 ソフトバンクが仮想敵国として照準を定めるのは、間違いなくアマゾンであろう。2000年にネット書店として日本に上陸して以降、アマゾンは日本各地に物流拠点を着々と建設しており、デリバリープロバイダー(地域配送会社)の組織化も進んでいる。

 ソフトバンクは、千葉県など関東近郊エリアの物流倉庫の自動化を手始めに、拠点を拡大していく方針。現時点では、物流倉庫の自動化に専念し、アマゾンも苦戦している「ラストワンマイル」の配送は手掛けないもようだ。

 それでも、ソフトバンクはグループ系列のヤフーやアスクルはネット販売チャネルを持っており、トヨタ自動車とは自動運転技術など次世代モビリティーで提携している。

 満を持して、ソフトバンクが物流へ参入するからには、倉庫業務の自動化が物流事業のビジョンの最終形だとは考えにくい。

 長期的には、自動運転車や次世代モビリティーが配送業務を担うなど、もっと壮大な構想を描いているに違いない。

● アマゾンと重複する 物流テック人材の獲得バトル

 そして、ソフトバンクの物流参入の成否は、「物流×IT」に造詣が深いIT人材を確保できるかどうかにも懸かっている。

 もともと、ソフトバンクはIT人材の獲得に熱心な会社だ。ペッパーでロボット事業に参入するときも、キャッシュレス決済アプリ「ペイペイ」をローンチするときもIT人材を大量に採用した実績がある。

 歴史的に見ても、多くの日本企業とは異なり、顧客管理などの基幹システムをSIベンダーに丸投げすることなく、重要なシステムについては内製化してきた。その背景について、「内製化には時間も労力もかかる。経営者(である孫正義代表)の覚悟があったのだと思う」(渡辺真生・ソフトバンクIT本部長)と話す。

 ソフトバンクに限らず今、世界的なデジタル革命を受けて、あらゆる業種の企業が、専門領域とITを組み合わせて新規領域へ参入している。企業の規模の大小を問わず、IT人材を内部に抱え込むのが必須の戦略となっているのだ。

 日本の高度なIT人材は“超枯渇”状況。ソフトバンクとアマゾンとの間でも「物流×IT人材」の獲得合戦が始まっているように、こうした人材の年収は高騰しており、簡単には採用できなくなっている。企業がビジネス戦略に沿ったIT人材を獲得できるかどうか。その「採用力」が、企業の存亡を分けることになりそうだ。

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