総務省が発刊している「平成30年版情報通信白書」に、興味深いデータがありました。「人口減少時代のICT(「Information and Communication Technology」の略称)による持続的成長」を特集として取り上げているのですが、その中で現在の日本でのソーシャルメディアの利用状況がまとめられています。
上の図表では、各ソーシャルメディアについて「①自ら情報発信や発言を積極的に行っている」、「②自ら情報発信や発言することよりも他人の書き込みや発言等を閲覧することの方が多い」、「③ほとんど情報発信や発言せず、他人の書き込みや発言等の閲覧しか行わない」、「④ほとんど利用していない」、「⑤まったく利用していない」と5つの項目に分けて調査されています。
実は日本では、ソーシャルメディアを利用している人自体がとても少ないのです。最も利用されているLINEでさえ「自ら情報発信や発言を積極的に行っている」層は17.0%しかいません。また、発信よりは閲覧をメインに行っている傾向が目立ちます。
この図表を通して、特に流通・小売業が注目すべき3つのポイントについてまとめました。
①まったく利用していない人がまだ多数
全体を通して驚くのは、ソーシャルメディアを「まったく利用していない」層が約半数から8割を占めることです。ここに挙げられた全てのソーシャルメディアを利用していない、という人も多くいると推察されます。
これは現時点での数値なので今後割合は変わってくるでしょうが、利用している人がまだ少数派ということは覚えておいた方がいいでしょう。
ソーシャルメディアを利用していないということは、テレビやCM、広告、書籍・雑誌、新聞やポストに入るチラシ、知人からの口コミを中心に情報を得ているということです。自店の主要顧客層が何を情報源としているかは、よく考える必要があります。
②発信した人からお客さまに近付ける
次に注目すべきは、「自ら情報発信や発言を積極的に行っている」層です。Facebookは5.3%、Twitterは7.7%、Instagramは3.9%、ブログは4.6%となっています。いずれも無料で比較的簡単にアカウント作成ができますが、積極的に発信している人は本当に少ないわけです。
アメリカ・ドイツ・イギリスの利用状況と比較すると、いずれの国も日本より「自ら情報発信や発言を積極的に行っている」傾向が目立ちます。
日本は主要言語が日本語なので「言葉の壁」も存在しているでしょう。英語で発信するのと日本語で発信するのではそもそも日本語が読める人が英語のそれと比較すると少ないため、少し状況が異なる面もあるかもしれません。周囲でも、Facebookのヘビーユーザーは海外に知人がたくさんいたり、英語で発信している人が多い印象があります。
ただ、写真やビジュアルでの表現に強みを持つInstagramでの発信力は、「Kawaii」文化の発祥地として、もっと生かせると感じました。既に清水寺のオフィシャルアカウント「feel_kiyomizudera」は執筆時(2018年9月22日)で16.6万フォロワー、お笑い芸人の渡辺直美さんは830万フォロワーと国外からのファンを増やし、多数の人に支持されています。
日本には、衣・食・住だけでも美しい景色や見た目のきれいな食べ物がとても多くあります。外国人観光客が多く訪れる場所なら、写真に英語の関連ハッシュタグを付けるだけでもPRになりそうです。
今、インターネット上にはたくさんの情報があふれているように見えますが、実態はこのわずかな層の発信を中心に私たちは目にしていることになります。アンケートは企業を対象としたものではありませんが、まだまだ発信するだけで消費者の目に触れるチャンスがあると私は考えています。
特に広告やプロモーションに予算を割きにくい中小企業や個店は、いずれか1つのソーシャルメディアを運用するだけでも認知度を高められると感じます。
私自身でも、インターネットで店名を検索しても場所や営業時間が分からずに、候補から外したことが何度もあります。検索して過去に行った人のブログのレポート記事がヒットすることもありますが、数年も前の記事情報だとそもそも現在も営業しているのか、定休日はあるのかなど不安になります。どうしても行きたい場所や理由がなければ、選択肢から外す確率が高まります。
公式情報があるだけでも、お客さまは安心します。専用のHPまでは設けられなくても、住所や営業時間、定休日、最寄りからのアクセス方法、駐車場の有無など、最低限の店舗情報が掲載されているだけでも印象は違うのではないかと思います。
③情報・レビューサイトの閲覧率の高さ
最後に気を付けたいデータは、「情報・レビュー共有サイト」を「ほとんど情報発信や発言せず、他人の書き込みや発言等の閲覧しか行わない」層29.8%です。
自店が積極的にソーシャル上で情報発信を行っていないと、これらのサイトの口コミがそのまま自店の評価として受け止められる可能性があります。
ソーシャルメディアに限りませんが、悪い口コミや評価はとても影響力を持ちます。インターネットでは表面上は匿名で誹謗中傷を行うことが可能なので、普段使われる言葉よりも過激な書き込みが行われているサイトも多くあります。ソーシャルメディアで自らが発信していくことは、こうした顔の見えにくい他者の評価から自店を守ることにもつながります。
逆に意図的に良い口コミをたくさん並べるサクラの演出は白々しく、バレた際にユーザーから大きく信頼を失います。
レビューサイトの評判については、コメント返しをする、定期的に書き込みに目を通しておくなど、対応できる範囲でチェックすべきでしょう。
レビューを1つの「お客さまの本音」として受け止めて、日常の営業を意識して行えば、良い口コミは自然と増え、評価も上がると私は考えています。本当の良い評判は、いろいろな人が書き込むので表現が異なっており、仮に拙い表現だったとしてもきちんと消費者に伝わるものです。
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これらのデータをどう受け止めるかは、それぞれの業種・業態によっても異なってくるでしょう。ただ今後の運営にも大きく参考になってくるはずなので、頭の片隅に入れておいた方がいいのではないでしょうか。