ソーシャルVRで初対面から友人関係がどう築かれるか? 東大が調査

東京大学葛岡・雨宮・鳴海研究室の研究チームが発表した「ソーシャルVRにおける交友関係の性質と形成プロセスに関する予備調査」は、ソーシャルVRにおいてアバターを使って交流するユーザー同士の交友関係がどのように築かれるかを調査した報告書だ。ソーシャルVR内で複数人からインタビューを行い、初対面から友人へと変化していくプロセス、友人間で行われている活動について検証し実社会との比較を行った。

VRChat内でインタビューしている様子

 ソーシャルVRとは、バーチャル空間上でアバターを用いてコミュニケーションが行えるアプリケーションを指す。有名なアプリケーションでは、VRChat、cluster、Neos VR、Rec Roomなどが挙げられる。

 現在ソーシャルVRを利用している日本人の男性ユーザーの多くが女性の外見を持つアバターを使用しているという既存の調査結果があるように、実身体とは異なる外見や実社会での立場や役割とは無関係にアイデンティティーを構築できる特徴を持つ。

 そして、このように好きなアイデンティティーを構築できたアバターの外見がユーザーの態度や振る舞いを変化させることが知られている。他のアバターに対して積極的な自己開示が含まれるコミュニケーションを行い、またアバター同士の身体的接触も増加する傾向にあり、これらのことで親密度が上がると報告されている。

 今回の研究では、このようなソーシャルVRにおける交友関係の性質と形成プロセスが持つ特徴について、実社会と比較しながら考察している。調査はアバター同士がVRChat内でインタビューする形式で行われた。参加者は7人、その内5人は20代男性の日本人、全員半年以上のプレイ期間を持つ。

 今回の報告は参加者7人の回答から考察しているが、調査そのものは途中経過で現在進行形なため結果が深まったり変わったりすることに留意したい。また、結果を断定していくためには他のさまざまな実証研究と協力していく必要もあることも合わせて覚えておきたい。

インタビューをした参加者の詳細

 インタビューでは、VRChat上での普段の過ごし方や友人との過ごし方、交友関係の形成過程、他人との関わり方についてなど、ソーシャルVRと実社会との違いも交えて質問した。

 分析は、テーマ分析という方法を用いて行う。テーマ分析とは端的に言うと、インタビューの回答を書き起こした内容に含まれる共通の繰り返しパターンを特定し整理して洞察するための方法である。

 テーマ分析でインタビュー内容を分析した結果、次のようなことが分かった。まず初対面の相手と出会ってから交友関係を深めていくプロセスには、さまざまなVRChatのワールド(アバターが交流するユーザーが作成した場所)が手助けしていると参加者全員が共通して答えた。特に、各ワールド特有の遊びを通した共同活動が重要な役割を果たしているということ。実社会と異なり、場所(ワールド)を瞬時に変えられる利点も含まれた。

 次に、初心者ユーザーに対して既存ユーザーが操作方法の説明やワールドの紹介を行う、「初心者案内」という文化についての回答が得られた。初心者案内を介して仲良くなったという参加者がいたことから、初心者案内にはユーザー同士が新たな交流を構築するきっかけとしての側面があると考えられる。

 VRChatには仲の良いユーザーを指定して「フレンド」として登録する機能が実装されている。相手とフレンドになると、相手がVRChatにログインしていることや、どのワールドにいるかを確認できる。

 そのため相手がいるワールドに行ける「ジョイン」が使え、容易にフレンド登録した相手と会える。このジョインという機能は一方的に相手のもとに移動するためのツールというだけでなく、親密になりたいという意思表示を相手に伝えるツールでもあると分かった。

 VRChatではユーザーがあるワールドに入室した際、自分以外にそのワールドを訪問できるユーザーの範囲を「自分のみ」「フレンドのみ」「フレンドのフレンドのみ」(friend+)というように段階的に設定できる。

 friend+のワールドでは完全なオープンではなく、“友達の友達”という人が入ってくるため、このような人たちとの偶発的な人脈形成が起こる。このことから、フレンド機能には連鎖的に性格の似た人と知り合える効果を示唆した。

 次に、身体的接触によって相手との距離を縮められる効果が見られた。見た目が良いアバターを使うと自信につながるだけでなく、相手に触れるコミュニケーションが容易にできるようになる。「きれいで美しいアバターに触られても嫌じゃないでしょ」といった具合だ。身体的接触が増え、親密度の向上につながる。

ソーシャルVRでアバター同士が身体的接触をしているシーン

 アバターのおかげでリアクションが大きく取れ、相手に対して感情を伝えやすくなったという回答も得られた。これはアバターの表情がコントローラー操作だけで表現できる手軽さのおかげだ。実社会よりも会話時にジェスチャーを多く取るようになることから、実社会よりも感情を表に出したコミュニケーションが取りやすい環境にあるといえる。

 相手との関係性を「身近な遊び相手」と表現する回答も多かった。「高校時代の友達と遊んでたときの雰囲気に似てる」「一緒にゲームしようとか、そういう距離感、気軽に誘えるっていう感じ」と回答する参加者もいた。社会人になり、実社会でこういった関係を築くのは一般的に難しいだろう。

 次に、実社会だとプライベートな話題にも触れられることがあるが、VRChatだとプライベートな話題には踏み込まない、慎む文化があることも分かった。ソーシャルVRでは、年齢や社会的地位を気にしないフラットなコミュニケーションが日々行われており、相手の情報の不確かさを受け入れた、匿名コミュニティーが成立していた。

 相手の情報が隠されているため、相手の印象形成(今知っている情報から相手の人物像をイメージすること)を外見から決定できないことから、会話で交わされる情報が重視されていると分かった。

 例えば、アバターが美少女で常にニコニコしていても不機嫌そうに話していたら怖い印象を持つ。このようにアバターの表情がユーザーの内面を正確に反映していない状況、美少女アバターが多数派の状況では、会話内容や話し方、声のトーンなどが相手の内面を探る手掛かりとして有効であり、相手の印象を形成する要素として重視されることを示唆した。

出典および画像クレジット: 秀未智,畑田裕二,葛岡英明,鳴海拓志.“ソーシャルVRにおける交友関係の性質と形成プロセスに関する予備調査”第27回日本バーチャルリアリティ学会大会論文集(2022年9月)

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