タクシー、競争激化で新サービス続々 流しと一線、生活者目線で顧客獲得

出産が迫った女性の病院への送迎、お年寄りの墓参りへの付き添い-。人生の「ゆりかごから墓場まで」寄り添おうと、都内23区を中心に営業する大手タクシー各社や業界団体は、さまざまな場面に応じた生活者の足を提供するサービスに注力している。従来型の流し営業と一線を画する新ビジネスで、マイカー所有者の増加や節約意識の高まりなどに伴う輸送人員の減少に歯止めをかける狙いがある。

◆若い顧客発掘に意欲

日本交通(東京都千代田区)は今夏、思い出の地を巡り婚約指輪を渡すまでを演出する「プロポーズタクシー」を立ち上げる計画で需要喚起に向けた新メニューが続々と登場しそうだ。

来春卒業する大学生の採用面接が解禁された1日、JR東京駅八重洲口のタクシー乗り場に「就活応援タクシー」と書かれたのぼりがたなびいていた。

東京ハイヤー・タクシー協会(同千代田区)の担当者が、スーツ姿の就活生に運賃1000円分を無料にする専用チケットを配布した。

企画は2015年8月に始め、5月末までに累計で約2000人が乗車した。同協会広報委員会の太田祥平委員長は「不慣れな場所であっても時間を節約し移動できるタクシーの利便性を実感してほしい」と、若い顧客の発掘に意欲をみせる。

ファン獲得に躍起になる背景には、マイカー所有の増大や鉄道整備の進展などに伴って縮小するタクシー需要がある。

国土交通省によると、全国のタクシー輸送人員は、1989年度の約33億人をピークに減り続け2014年度に約15億人に落ち込んだ。一般ドライバーが料金を受け取って自家用車で利用客を送迎するライドシェア(相乗り)の解禁に向けた検討も政府で進んでおり、競争激化に業界は警戒感を強める。

活路を見いだそうと、日本交通は約9000人のドライバーがいる同社グループの中から安全運転や接客面で優れた約150人を「精鋭乗務員」として選抜し、子供の通塾や高齢者の買い物などを広範囲に後押しする。

◆存在価値高める鍵

この実績を土台に12年5月から「陣痛タクシー」のサービスを実施。事前に住宅や電話番号、出産予定の病院などを登録すれば、陣痛時に優先的に配車してくれる。同サービスへの登録者は、3月末時点で累計約12万人に達した。

国際自動車(同港区)も陣痛時から乳児検診まで使える「マタニティ・マイタクシー」を13年3月に始めた。登録会員は4月末までの累計で8万4000人。子育てタクシーを手掛ける日の丸交通(同文京区)も月間予約件数が前年同月比約2倍と好調だ。日本交通の女性ドライバーは「丁寧な接客の積み重ねがタクシーに慣れ親しむ層の拡大につながる」と語る。同社は企業から協賛金を得て陣痛タクシーの無料化も視野に入れる。生活者目線のサービス追求が、タクシーの存在価値を高める鍵を握っている。(臼井慎太郎)

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