「東京ドームのステージから見る、ペンライトがいっぱいの景色って、すごくキレイなんですよ。全然自分がメインじゃないんですけど、それでも、すごく気持ちが良くて……」
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元ジャニーズJr.の中村一也氏(35)は、初めて東京ドームのステージから、観客席を眺めたときの気持ちをこう振り返る。仲間との楽しい日々、レッスンに費やした努力、そしてステージでの恍惚感。だが、その僅か数時間後の出来事によって、全てを捨てざるを得なくなった――。
ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題は、収束の気配を見せない。5月26日、ジャニーズはプレスリリースを発表した。
「心療内科医の鴨下一郎元環境相が担当する『心のケア相談窓口』を設置、林眞琴元検事総長をトップとする『外部専門家による再発防止特別チーム』を組む。その再発防止の提言を実行に移す社外取締役に、WBCで侍JAPANのヘッドコーチだった白井一幸氏ら3名が就任することが記されていました」(全国紙記者)
ただ結局、櫻井翔や中丸雄一など一部のタレントが求めていた、外部有識者による第三者委員会の設置は見送られた。事務所が掲げる再発防止には、何よりも過去の徹底的な検証が必須のはずであり、世間の納得を得られるような内容ではなかった。
小誌には今も、被害を受けたという男性からの声が寄せられている。中村氏もその一人だ。
彼はジャニーズJr.が多数出演していた『8時だJ』(テレビ朝日系)を観て、テレビに出ることに憧れた。滝沢秀明や今井翼、山下智久など、ジュニア人気が最高潮の時代だった。母が履歴書を送り、中学1年だった2001年1月、事務所からいきなりダンスレッスンに呼ばれた。そこからジュニアとしての活動が始まる。
「タッキー&翼」デビューコンサート出演の夜に受けた被害
被害に遭ったのは、2002年10月19日。日付がはっきりしているのは、この日、東京ドームでタッキー&翼のデビューを記念したコンサートがあったからだ。
中村氏も出演し、翌日も同じ公演があったため、ジャニー氏の自宅に泊まることになった。その日は5人ほどが泊まっていたと記憶しているという。上階の部屋で3人のジュニアと並んで寝ていた。中村氏は真ん中だった。その深夜のことだ。
「足元のほうから布団に入ってきて、すぐジャニーさんとわかりました。もう怖くて動けない。マッサージをされていたのかわからないですけど、(性器を)しゃぶられて……。自分のおじいちゃんみたいな親しみもあったので、そのショックもありました。やられてる最中は、女の子にやられているっていうのを想像して、頼むから終わってくれって。結構長かった気がします。30分くらいの感覚でした」
翌朝、ジャニー氏と他のジュニアと朝食を食べていた時だった。
「テーブルの下で、足の甲を、足でさすられたんです。それがまたゾッとした」
「もうやる気が半減してました」
タクシーでドームに到着したとき、他のジュニアが会場入りする中、彼はジャニー氏に呼び止められた。
「1万か2万を手渡されました。『いらないよ』って断ったけど、『あげる』って言われて受け取った記憶があります」
前夜の出来事は、コンサートの時間を迎えても、重くのしかかっていた。
「結構、引きずってた。そこから、もうやる気が半減してました」
初日と同様、その日も観客席にはペンライトの光が揺れていた。
「キレイだなって思う気持ちの反面、素直に喜べない、複雑な感情が湧いていました。もう気持ちがだいぶ病んでたんでしょうかね」
中学3年生、15歳だった中村氏は直後、受験の準備を理由に、ジュニアの活動から離れる。
「その後、仲の良いジュニアから、『ジャニーさんが呼んでるから泊まりに来い』と連絡が来たんですが、『嫌だ』と言って行きませんでした。しばらくしてジャニーさんに直接電話して、辞めますと伝えた。特別引き止められるようなことも言われなかったと思います」
中村氏はそれ以降、芸能界を離れ、今は事業を行っている。
今回、実名・顔出しで告白した理由を中村氏はこう語る。
「なかなか経験できないことをさせて貰えたという思いもあったので、別にジャニーズに恨みがあるわけではないです。ただカウアン(・オカモト)君の会見を見ていて、黙っていられなかった自分がいるんです。やっぱ周りにも言われるんですよね。『結構いいところまで行ってたのになんでやめたの?』って。でもそのことがあったからだとは言えなかったんです。ただ、これだけ性被害について騒がれている中で、地元の友達にも、辞めた理由はそういうことがあったからだと、ようやくカミングアウトできました」
ジャニーズ事務所に中村氏の被害について事実確認を求めたが、回答は無かった。
「児童虐待防止法」改正に向けて元タレントたちも協力
どうすればこうした未成年者の性被害を防げるのか。いま国会で議論されているのが「児童虐待防止法」を改正することだ。現行の児童虐待防止法では「保護者」が18歳未満の児童に行う暴行・わいせつ行為などを「児童虐待」と定義しているが、ここでいう「保護者」は親権を持つ親に限定されている。そこでいま、その対象を芸能事務所の幹部や、部活動の顧問など「経済的、社会的に影響力を持つ第三者」の虐待にも範囲を広げることを検討しているのだ。
この法改正に向けて、性被害を受けたジャニーズ事務所の元タレントたちは署名活動を進めている。発起人となっているのは、実名・顔出しでこれまで被害を語ってきた橋田康氏、カウアン・オカモト氏、二本樹顕理氏、志賀泰伸氏の4人で、賛同する声を集めるべく、サイト「Change.org」で署名活動もスタート。4日間で、既に2万5000人以上が賛同している(5月31日現在)。
5月31日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」及び6月1日(木)発売の「週刊文春」では、中村氏がNHKで受けていたレッスンの内容、被害を母親に伝えた時のこと、会見を開いた元ジュニアの橋田氏がジュリー氏と語ったこと、ジャニー氏が法で裁かれる可能性、児童虐待防止法改正が進まない要因である公明党の動きと言い分などについて詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年6月8日号)