タモリ論著者「『いいとも』最終回はテレビのお葬式」と語る

3月31日、1982年から続いた『笑っていいとも!』(フジテレビ系)が終了した。この国民的バラエティ番組の司会をつとめたタモリこと森田一義氏について、『タモリ論』(新潮社)著者の作家・樋口毅宏氏はどう感じたのか。同氏が語るところによれば、対照的な二つの場面によって、『いいとも!』最終回は「テレビのお葬式」らしくなったという。
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 なんと明るい“お葬式”だろう。番組を見終わった感想はそれでした。あれは、『笑っていいとも!』だけでなく、“テレビのお葬式”だったのかもしれません。
 最終回の特番では、明石家さんま、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるず、爆笑問題などが一堂に会する「怪獣大戦争」が実現しました。とりわけ、ダウンタウンの松本人志と爆笑問題の太田光は知る人ぞ知る“因縁”があるだけに、ふたりが絡んでいるだけで、テレビはこれほど面白いものだったのかと興奮を覚えました。
 タモリという「テレビの象徴」を中心に置く『いいとも!』という場でなければ、絶対に実現できなかったでしょう。しかし、考えてみたらこうした「奇跡」が毎日起きていて、それが8054回も続いたのが、『いいとも!』という番組だったのです。
 かつてプロレスは、プロレスの枠からはみ出した瞬間こそ一番輝くものでしたが、『いいとも!』もまた、時に予定調和の展開からはみ出す事件を生み出すことで『いいとも!』らしさを保ってきました。その意味で、あの豪華メンバーが次々に乱入して繰り広げた場面は、最高のプロレスであり、もっとも『いいとも!』らしい瞬間だったのです。ちなみに、この光景をタモリは「プロレスか」と見事に指摘していました。
 さて、こうして芸人たちがプロレスを繰り広げた後に、あえて危険なシュート(プロレス用語で真剣勝負を指す)を仕掛けた人たちがいます。SMAPの香取慎吾と中居正広です。ふたりはタモリへ感謝の言葉を贈るコーナーで、明らかにバラエティを逸脱する、番組終了に対する怒りをむき出しにした発言をしました。
 香取は、「そもそも、なんで終わるんですか?」とぶちまけ、中居は「バラエティは終わらないことを目指す。終わらなければならないことは非常に残酷」と断じました。
 ふたりは『いいとも!』と並ぶフジの看板番組『SMAP×SMAP』を持っています。その彼らが公然とテレビ局批判をした。下手をすれば、自分たちの番組が終わるリスクを負いかねない発言です。
 これはふたりにとって卒業式だったのかもしれません。レギュラーになった当初、何もできなかったふたりが、最後の最後で強制勇退させられる校長に向けて、自分たちの成長をアピールし、恩返しした。いいとも学校は解散したけど、その魂を引き継いだのは芸人ではなかったということです。
 この2つの場面によって、『いいとも!』最終回はテレビのお葬式にふさわしいものになりました。
(樋口毅宏氏・談)

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