出せば完売、売れば高額。タワマンブームが終わらない。庶民は手が出せない代物なのに、いったい誰が買っているのか。バブルは弾けるのか。タワマンのいまと未来、天国と地獄を覗いてみる―。 【一覧】これはすごい…直近5年で爆騰したタワマン「ベスト120」はこちら!
リビングから愛車を眺める
大阪の一等地にそびえ立ち、眼下に梅田の繁華街を一望できる地上46階建て、高さ172・55mの巨塔。今年2月から分譲を開始したタワマン「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE」が、不動産のプロたちの間で話題を呼んでいる。 「いくつかの部屋は入り口から専用エレベーターで直結しているのはもちろん、自家用車を上まで運んでリビングでくつろぎながら愛車を鑑賞できる『カーギャラリー』まで備えています。 最上階の部屋は約90坪の2LDKで、販売価格はなんと25億円。坪あたり約2700万円という値段は驚きですが、発売した当初から引き合いは多かったそうです」(住宅ジャーナリストの山下和之氏) 勢いを比べるならば、東京も引けを取らない。昨年9月に竣工した「麻布台ヒルズレジデンス」の最上階は、東京タワーとほぼ同じ地上330m。そこに3戸だけあるペントハウスの販売価格は日本史上最高額の200億円と言われ、坪単価は4400万円、転売市場では6000万円の値がついた。なお3戸のうち1戸は、日本人のIT長者が所有しているという。 ここまで高額の物件に限らずとも、最近のタワマン人気は度を越している。住宅ジャーナリストの榊淳司氏も、その過熱ぶりに驚きを隠せない。 「横浜市の中心部からかなりはずれたところにある『リビオタワー羽沢横浜国大』は、アクセスがさほど良くないうえ周囲の環境も住みやすいとは言い難い。それでも’22年に分譲が始まった時は、割と短期間で完売しました。ここ数年、首都圏ならばどこに建ててもすぐに売れてしまう状況が続いている印象です」
値上がりが続くタワマン市場
’23年、東京23区のマンション価格の平均は約1億1500万円にまで達した。タワマンに限れば10年前のおよそ2倍、人気エリアの港区では約3倍にまで上昇している。大手デベロッパー社員がその実情を明かす。 「都心部のタワマンについては、思い切った値段をつけても間違いなく売れていきます。ここ最近の高すぎる売買価格を見ていると、正直『自分たちデベロッパーが悪ノリしているんじゃないか?』と思うこともしょっちゅうありますが、それでも出したそばから次々と売れちゃうんですよ。 かつてタワマンの値段は、大手企業のサラリーマンがローンを組める1億円で落ち着くとも言われていました。しかしもはやそれすら突破して、どこまで値上がりが続くのかわかりません。買う側もこの『異常事態』に慣れてしまっているのか、最近では30代の夫婦が50年ローンを組んで、3億~4億円の部屋を購入するケースもある」 数年前まで不動産業界では、「2024年に湾岸エリアのタワマン価格が暴落する」というのが定説だった。’24年には、東京五輪の選手村跡地に建設された「晴海フラッグ」と「パークタワー勝どき」、合計4400戸の引き渡しが予定されていたため、新築物件が一気に市場に出て値崩れが起こると予想されたのだ。 しかし実際には供給が増える以上にタワマン需要が過熱し、「湾岸2024年問題」は起こらないどころか、むしろ価格は上がり続けている。 湾岸エリアでは’26年にも、「グランドシティタワー月島」と「ザ 豊海タワー マリン&スカイ」の引き渡しが行われる予定だ。そのため次は「2026年問題」が起こると予想する関係者もいるが、可能性は低いだろう。
「タワマンヤドカリ」の終焉
都心マンションソムリエの稲垣ヨシクニ氏がその理由を解説する。 「2つのタワマンを合わせても市場に出るのは2400戸程度で、’24年の半分程度しかありません。そのうえグランドシティタワーは月島駅から徒歩5分、ザ 豊海タワーは勝どき駅から徒歩10分で、最寄り駅から20分近くかかる晴海フラッグと比べても格段に暮らしやすい。需要が下がるとは考えにくいでしょう」 誰もが値上がりすると信じているからこそ、価格が上昇し続ける―東京ではまさにタワマンバブルが起こっているのだ。一方で高騰している背景には投機的な要因に加えて、構造的な問題もある。前出の大手デベロッパー社員が明かす。 「そもそも東京の都心部は開発され尽くしていて、大きなタワマンを建てたくても建てられる土地がほとんど残っていない。そのうえ、インバウンド需要を背景にしたホテルとの用地の奪い合いも激しくなっています。首都圏では、’00年には10万戸あった新築マンションが今では3万戸にまで減っているので、供給が減れば値上がりするのは当然です。 加えて’22年から本格化した資材の高騰により、タワマンの建築費は大きく値上がりしました。かつては1戸あたり1000万円程度で済んだものが、いまや3000万円かかるのが当たり前になってきた。同時に職人の高齢化が進み、各地で行われる再開発プロジェクトで人手も不足しています。この先、デベロッパーが売り出す価格が上がることはあっても、下がることはまず考えられないでしょう」 大方の予想を超えて、際限なく値上がりを続けているタワマンだが、ここまで高騰すると購入できる人も限られてくる。多くの日本人にとってローンを組んでも手が届かない価格にまで達した物件を、はたして誰が買っているのか。 これまでタワマンの主な買い手は、世帯年収が2000万円前後の共働き夫婦、いわゆる「パワーカップル」だと言われてきた。夫婦でペアローンを組めば1億5000万円くらいまで借りられるため、70程度の物件ならば都心部でも購入できる。値上がりが続くのを見越して数年で売却し、それを頭金にローンを組んで次のタワマンに住み替える「タワマンヤドカリ」は少なくないものの、最近では変化が生じつつあるという。 「パワーカップルは自己資金比率が低く、もしどちらかが職を離れれば大幅に収入が減って、ローンの支払いに行き詰まるリスクもある。ここにきて金利が上がり始めたこともあり、銀行は彼らへの融資に慎重になっています。今後は減少していくかもしれません」(前出の山下氏) 後編記事『タワマン価格が「一気に暴落」する日はくるのか…転売を繰り返す人々を待ち受ける「天国と地獄」』に続く。 「週刊現代」2024年11月16日・23日合併号より
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