タワーマンションの人気“凋落”と戸建て住宅の需要復活

 コロナはさまざまな面で日本社会を変えている。今のところ、もっとも大きな変化の原因になっているのがテレワークの普及だろう。

 毎日職場へ出勤しなくてもいいというのは日本にサラリーマンという職業形態が定着したこの約100年間で、最も大きな変化かもしれない。これによって、企業のあり方から社会の仕組み、人々の人生観までガラリと変えてしまった可能性がある。

 私の専門である住宅ということだけに絞っても、この影響は目を見張るものがある。ここでは、その一断面をご紹介しよう。

 一言でいうと、「タワマン(タワーマンション)の人気凋落と戸建て需要の復活」となる。

 コロナ以前は基本的に若年層にとっての憧れともいうべきだったタワマンという住形態に対して、多くの疑問が浮かび上がってしまった。

 まず、高層階の居住はエレベーターの使用が必須条件だが、これは間違いなく「3密」である。「1回の利用につき5人まで」。そんな利用制限を設けているタワマンも多いという。途中で乗り込む中層階居住者はつらい。運が悪ければ数十分も待つことになる。

 昨年の台風被害で建物全体が停電し、エレベーターを使えなくなった川崎市のタワマンがあった。超高層マンションは災害に弱いという今まで見逃されていた現実も露呈してしまったのだ。あの記憶が薄れぬうちに、今回のコロナ騒動が持ち上がった。

 さらにタワマンは住戸間の壁が薄いことも広く知られた。階層が何十と重なるタワマンは、荷重負担を軽減する必要がある。そのために、住戸間の壁は「乾式」というコンクリートが入っていないパーテーションのような建材を使っている。当然、普通の低層マンションならまず聞こえない隣戸の生活音が漏れてくる。逆に、こちら側で騒音を発するとクレームの原因にもなる。

 コロナ騒動は、くしくもタワマンという住形態の弱点をいくつも浮かび上がらせた。これが不人気化につながりそうだ。

 逆に、これまでマンションに比べてセキュリティーや気密性、ゴミ捨ての煩雑さなどの面で「住み心地が悪い」とされてきた戸建て住宅が見直されている。

 多くの分譲戸建ての場合、一定の広さと部屋数が確保されているので、テレワーク用の独立スペースを設けやすい。エレベーターを使うことなくダイレクトに外出できる。管理費などの維持コストが基本不要な上、駐車スペースがあれば無料で使える。

 ということで都心やその周縁部での新築戸建ての販売は絶好調になっている。やや郊外の中古格安戸建ても、買い手が次々に現れるようになった。

 タワマンは通勤に都合がいい場所で、ダブルインカムファミリーが何とか買える水準の価格で販売されることが多い。それが毎日通勤する必要がないということになれば、ハイリスクなペアローンを組んでの購入需要は薄れるだろう。当然の変化だ。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。

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