タンス預金50兆円がピンチ…4月1日から銀行口座とマイナンバーが紐付けられる「口座管理法」期限内に回答しなければ「同意」と見なされる

4月1日から預貯金口座のマイナンバー(個人番号)付番がスタートした。国が災害発生の際や相続時の利便性をメリットにあげる制度なのだが、自分の財産が「丸裸」にされると不安視する向きは少なくない。マイナンバーとの紐付けは義務ではないものの、金融機関は口座開設などの際に届け出を伺っている。経済アナリストの佐藤健太氏は「国から十分に周知されないまま開始され、金融機関からのお知らせにドキッとする人も多い。しっかりと制度を理解した上で口座との紐付け管理を考えるべきだ」と指摘する。

一定の期限までに登録の有無を回答しなければ自動的に「同意」

 4月1日にスタートしたマイナンバー(個人番号)と預貯金口座の紐付け管理は、災害発生時や相続時の手続き簡略化を可能とする制度だ。政府は「行政の効率化」「国民の利便性向上」「公平・公正な社会をつくる」の3点をデジタル化推進の目的に掲げ、様々な機能を持たせるマイナンバーカードの普及に注力する。5月27日には年金受給者の口座情報とマイナンバーも国に登録されることになるが、シニアからは「自分の資産が監視されるのではないか」といった不安の声が尽きない。  改正マイナンバー法に基づく年金受給者の紐付け管理は、公金受取口座の情報をマイナンバーと紐付けて国に登録されるものだ。緊急時の給付金や年金の受給がよりスムーズになると期待されている。登録は義務ではないものの、対象者は日本年金機構からの書留郵便による通知後、一定の期限までに登録の有無を回答しなければ自動的に「同意」したと扱われる。どうしても登録したくない人は要注意だ。  4月に開始された預貯金口座とマイナンバーの紐付け管理に加え、7月には50兆円ともいわれる「タンス預金」のあぶり出しを狙ったといわれる新紙幣発行も控える。口座管理法に基づく預貯金口座との紐付けも義務ではないものの、それらの政府の動きを不気味と感じる向きはあるだろう。SNS上には、国民が汗水垂らして貯めてきた「財産の見える化」を狙っているのではないかと疑心暗鬼の声も渦巻く。

マイナンバー制度のトラブルは後を絶たず、先行きを不安視する向き

 政府は口座残高や取引履歴を把握することはないと説明する。預貯金口座とマイナンバーの紐付け管理には、①相続時に被相続人の預貯金口座の情報をマイナンバーで特定できる②災害発生時には避難先の金融機関でマイナンバーに基づいて別の金融機関であっても現金を引き出すことができる―というメリットがあり、税金の強制引き落としや預金残高の監視といった行為はないというわけだ。シニア向けの公金受取口座の登録においても政府は「デジタルに不慣れな方も容易に登録が可能」「給付の迅速化」などと説明する。  ただ、強引に突き進んでいるように映るマイナンバー制度のトラブルは後を絶たず、先行きを不安視する向きもあるのは事実だ。政府は12月2日から現行の健康保険証を新規発行しないと決め、マイナンバーカードの保険証利用を強力にプッシュする。メリットとしては、特定健診や薬の情報をマイナポータルで閲覧できたり、正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられたり、限度額以上の医療費の一時払いが不要になったりするというものが示されている。

また始まった…自民党が大好きなバラマキで強引な解決はかる

 武見敬三厚生労働相は4月9日の記者会見で「5月から7月までを『マイナ保険証利用促進集中取組月間』として医療DXのパスポートとなるマイナ保険証の利用促進に全力を挙げて取り組む」と説明。この期間中には、マイナ保険証利用促進のため利用者が増えた病院に対して最大20万円の一時金を支給するのだという。つまり、利用率をアップさせるために診療所と薬局に最大10万円、病院に最大20万円を出すということだ。  だが、直近3月のマイナ保険証利用率は5.47%にすぎない。国民の9割超は従来の保険証を利用しているということだ。12月から現行の保険証は新規発行が終了されるが、マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」が発行されるという。そのコストも考えれば、血税の使い方として他に方法やタイミングがなかったのか疑問に感じざるを得ない。  福岡県歯科保険医協会(福岡市)が実施したアンケート調査によれば、マイナ保険証の受付システムを導入した歯科医院の7割が「トラブルがあった」と回答している。保険者の情報が正しく反映されなかったり、カードが読み取れなかったりするトラブルが相次ぎ、中には他人の情報に「紐付け」されていたといった問題も発覚した。他の医療機関でも別人の情報が紐付けられていたケースもある。医療現場の負担増も目立ち、現行の保険証継続を望む声は消えない。

マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにしていく方針

 先に触れたように、マイナンバーカードが利便性を向上させるのは間違いない。マイナンバーを証明する書類として利用でき、本人確認が1枚で済む唯一のカードだ。証券口座などの開設やコンビニでの住民票、印鑑登録証明書の取得も可能である。2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、政府は「運転免許証との一体化」「障害者手帳との連携の強化」「資格情報のデジタル化」「引越し手続きのデジタル化推進」「在外選挙人名簿登録申請のオンライン化」などを推進していくという。将来的には、マイナンバーカードの全機能をスマホに搭載できるようにしていく方針で、国はさらなる生活の利便性向上を目指す。  ただ、あらゆる個人の情報が1枚のカードにおさめられることへの懸念は消えていない。総務省は4月、マイナンバーカードを使った証明書交付サービスで別人の住民票の写しを交付したトラブルが高松市であったと説明。システムを提供した富士通に行政指導した。原因はプログラムの設定ミスというが、同社の誤交付発覚は昨年だけで15件もある。現時点でさらなる被害は確認されていないものの、「知られたくない人に自分の住民票が勝手に取得されていたらと思うとゾッとする」という声が上がるのは当然だ。

「現行の健康保険証は終了」という政府の姿勢

 わが国のマイナンバーカード保有枚数は3月末時点で人口の約74%にあたる9216万枚に上る。マイナンバーと預貯金口座や年金受給者の口座情報との紐付けは今のところ義務ではないが、「回答なければ同意とみなす」「現行の健康保険証は終了」という政府の姿勢を見れば、やがて強制的になるのではないかと思う人も少なくないはずだ。  人々の財産データや健康に関する情報などが本当に別人に漏れる心配はないのか。国が預金残高などを監視したり、税金の強制引き落としをしたりすることはないのか。マイナンバー制度によるデジタル化を国が強力に進める一方で、国民の不安は尽きない。  国会では自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件ばかりがクローズアップされているが、政府はあらためて国民の懸念に答える努力をしていく義務があるだろう。マイナ保険証の利用率低迷の背景にあるのは、制度に対する信頼がないということを重く受け止めるべきだ。

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