青森県に毎年秋、禿頭(とくとう)自慢の人が集う町がある。津軽平野の中央にある鶴田町。ユーモアあふれる話題を世に振りまく「ツル多はげます会」が、頭に付けた吸盤でひもを引っ張り合う「吸盤綱引き」全国大会を開催している。須郷貞次郎会長の目標は「コンプレックスのある人が開放的な気持ちになれる、『心のカツラ』を外しに来られる聖地として地域を盛り上げる」ことだ。
はげます会は1989年2月、創設者の故・竹浪正造さんが「はげ頭で暗い世の中を明るく照らそうじゃないか」と同じ髪の薄い知人らと意気投合して設立した。中秋の名月などに合わせて「有多毛(うたげ)」と称した例会を開き、吸盤綱引き大会や頭頂部だけで誰の頭かを言い当てる「名月当てクイズ」などを催してきた。
「世界のはげの聖地へ」−−。2014年秋、須郷会長は「会の知名度を利用した独創的な取り組みで、世界の人を町に引き込みたい」と、こんな壮大な構想を打ち出した。それまでは会員だけの遊びだった吸盤綱引きを、15年から全国大会として開催。県内外から大勢の人たちが集い、全国メディアにも取り上げられるようになった。その盛り上がりに、今年10月に亡くなった竹浪さんも「憂さ晴らしで始めた活動が、いつしか町を大いに盛り上げている」と笑みを見せた。
昨夏には「コンプレックスを抱える人が明るくなれる本」として会員の川柳を集めた本を出版。禿頭に交通安全の旗を掲げて子供たちを見守る「け(毛)がな(無)し」運動は海外でも話題になり、小さな町の知名度向上に大きく貢献している。
はげます会では、15年9月、健康長寿を祈願したつるつる頭のご神体「玉祖命(たまのおやのみこと)」に御霊入れを行った。今は鶴田八幡宮に仮鎮座しているが、「毛が無いご神体の頭をなでれば、けがなく健康に過ごせる」という触れ込みで、新たな名所にしたい考えだ。クラウドファンディングで資金を募ってご神体を奉る社を建立する計画があり、地元の銀行幹部からも「誘客促進につながる」と太鼓判を押されているという。
来年で設立30年目を迎える会のスローガンは「はげの光は平和の光 暗い世の中 明るく照らす 日本も光る 世界も光る」。須郷会長は言う。「ここ鶴田町を世界のはげの聖地とし、平和の光を発信してまいります」【佐藤裕太】=随時掲載
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■メモ
◇鶴田町
リンゴ栽培も盛んだが、ブドウの一種「スチューベン」の生産量は日本一。南には津軽富士とも呼ばれる青森県の最高峰・岩木山を望む。農業を支える廻堰大溜池(まわりぜきおおためいけ)は見晴らしの良さから「津軽富士見湖」という呼び名で親しまれ、湖畔では丹頂鶴が飼育されている。