テレビのおばさん化がもたらしたテレビ局の深刻な状況

視聴率と局の収入の増減が相反している…

この連載を6月からあらためて再スタートした時、「テレビが危うい、おばさん化がはじまっている」という記事を 書きました。世帯視聴率ベースでテレビ界が動いてきた中、高齢化が進んで50歳以上の人口が増え、男性が長時間労働で会社に縛り付けられるとF3(女性 50歳以上)の比重が異様に高まってしまっている。だから番組がF3好みに寄ってしまいおばさん化している。おばさん化したテレビから、ますます若者が離 れていってしまう。そんな内容でした。

そしてどうも今年、とくに4月以降の視聴率や放送収入が大きくダウンしている気配があると書いていたのですが、11月初旬にテレビ局各社の決算が出 揃ったので、実際のところどうなのかを調べてみました。そうしたら、かなり大変な方向へ向かっていると筆者には思えました。今回はそこんとこ、じっくり書 いてみたいと思います。

さてまずは視聴率です。テレビ局の決算説明会資料には視聴率がきちんと掲載されています。2015年度半期決算時点、つまり今年の4月〜9月の平均 視聴率がわかります。これを2010年度以降の半期決算の資料、つまり各年度同時期の視聴率をグラフ化したものがこれです。HUT(総世帯視聴率)をゴー ルデンタイムとプライムタイムで並べてみています。単位は%です。ここは広告業界のメディアなので、HUTがなに?とかゴールデンやプライムがわからない とか言う人は自分で調べてくださいね。

これを見るとドキッとするのではないでしょうか。もちろん、ドキッとしてもらうために急落している様子を強調すべく目盛りを調整しています。いちば ん下が59%なので、今年度の数字がすごーく低く見えるわけです。少し大袈裟です。でも、実は東日本大震災以降少し持ち直していた視聴率が、去年がくんと 下がり、今年がくんがくんと極端な下り坂に入っていることがわかるでしょう。

次に局別にプライムの数字だけをグラフ化したものがこれです。見るのが辛い人もいるでしょうけど、見たくない現実を見るべき時もあります。見てください。凝視してください。

もちろん赤い線のフジテレビは数年間下がり続けています。でも某経済誌みたいにフジテレビを揶揄するのがここでの目的ではありません。さっきの HUTと合わせてとらえると、フジテレビの下がった数字を他の局がほとんど拾えていないことがわかります。それこそが大問題なのです。フジテレビから離れ た数字がそのままテレビから離れた数字になってしまっているのです。

そして日本テレビを見るとまた愕然とします。落ちてない。というか、ここ数年こんなに伸びているのか、と驚いてしまいます。一人勝ちです。ひところ はテレビ朝日が次の三冠王かとも言われていましたが、はっきり言ってそんなことにはまったくなっていません。むしろ、他の局がまったく手も足も出ない高み にひとり登ってしまった状態です。

でもまあ、フジテレビ以外はホッとしていい、のでしょうか。視聴率は少し上がっているし、よくはないけどダメでもない、ように思えますが、まったく そうではありません。油断ならないどころか、日本テレビ以外ピンチなのです。この局別の「放送収入」を折れ線グラフにしたものを見てください。

各局はいま、認定持株会社制度によってホールディングス制をとっています。テレビ局本体以外にグループ内に多様な企業があり、決算の全体の数字には それらが合算されて出てきます。テレビ局の広告収入は、各局の書類の奥に「タイム収入」「スポット収入」などの括りで書かれています。このグラフはその数 字を合算したものです。つまり、テレビ局の放送による収入力のピュアな数値です。

テレビ東京には大変申し訳ないのですが、他の局と水準が違うのでここには出てきません。わかりやすいグラフにするためです、ごめんなさい。4局のグ ラフです。これをさっきの視聴率の推移と比較してみてください。フジテレビは視聴率が下がり放送収入も下がっています。日本テレビは視聴率は横ばいなのに 放送収入は上がっています。そして、テレビ朝日とTBSは・・・視聴率は微増なのに放送収入は微減です。いいですか?視聴率と収入の増減が相反しているの です。これはビックリポンです!

もちろん、視聴率と放送収入は必ずしも連動しません。また、放送収入と対比するならプライムより全日データの方がいい気もします。ただ、局によって こんなに傾向に差があるなんてこれまであまりなかったのではないでしょうか。これは、日テレが視聴率でも収入面でも一人勝ちと言わざるを得ない状態です。

これはどういうことでしょうか。いったい何が原因なのでしょう。

「収入減」になる理由を論理的に考える

考えるための資料として、また別のグラフをお見せします。博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が毎年、「メディア定点調査」を発表しています。今年も、Webで「メディア定点調査2015」としてグ ラフなどを公開してくれています。私のような者には大変ありがたい資料です。そこには、性年齢別のメディア接触時間のグラフが毎年出ています。いつも若者 のテレビ・新聞の接触時間が減っていることばかりみつめていましたが、今年あれ?と思うことがあり、数年分を自分でグラフにしてみました。40代、50 代、60代の年配層のテレビの数字だけを男性女性、それぞれ別の棒グラフにしたのです。単位は「分」です。

男性女性、それぞれを見比べると、とくに2014年と2015年で顕著な差が出ています。女性は50代と60代の時間がものすごく伸びています。でも男性はぐんと下がっています。

このグラフだけを見てすべてを判断するのは危険です。実際、もっと前の年はまた増えたり減ったりしているので、たまたま今年だけなのかもしれない。

でも、ここからこの一年で、年配女性のテレビ視聴時間が増え、年配男性は大きく減ったことは言える。

ああ、やはりテレビはおばさん化しているのではないでしょうか。

筆者はテレビが好きで、よく見ています。そして最近、強く感じていることがあります。テレビが好きなおれが、見たい番組が急に少なくなってきた。上のグラフは、自分の気持ちを言い表しているようなものなのです。

ゴールデンタイムにテレビをつけると、出てくる話題は健康ネタばかり。あるいはお掃除の知恵、洗濯のコツ、そんなのばっかり。生活に役立つちまちま した話を、立派なタレントをひな壇に並べて次から次に送り出しています。もちろん私の奥さんは、ふんふんとうなづきながら見ています。けっこう集中してい て、チャンネルを変えていいか聞くと「見てるんだけど」と言い放ちます。F3の心をがっちりつかんでいるのです。

テレビの制作スタッフは優秀です。ゴールデンやプライムタイムともなると、たくさんの構成作家やリサーチャーやADが、調べまくったネタが満載されています。健康とお掃除と洗濯の最新情報で番組が埋め尽くされているのです。

そんな番組を、たまに見た若者が、共感するはずありません。「ん?これちげえ。おれらのメディアじゃねえ」と決め込むでしょう。いまや若者がテレビ離れを起こしているのではなく、テレビの方が若者から離れているのです。

その結果が、視聴率がちょいと上がったくらいでは取り返しがつかない収入減につながっているのではないでしょうか。世帯視聴率だけを見ていると、論 理的にこうなってしまいます。視聴率をいくら取ることができても、収入につながらないのであれば、何のための努力なのでしょうか。

スポットではなくタイムを選んだスポンサーの声

もちろん、景気の問題は大きい。結局、広告メディアの収入は景気に一番左右されます。でも日本テレビだけ一人勝ちになっている説明にはならない。それとは違う要因がいま、働いています。

あるスポンサー企業の方が私に言いました。

「うちは前はスポット中心でしたが、ターゲットが30代なのにスポットだとGRPベースなのでF3中心に当たってしまう。だからいまはタイムに集中させて、30代がちゃんと見ている番組に絞っています」

なのだそうです。

これは一つの例ですが、スポンサーさんは考え始めています。テレビCMは効かない、と思っているのではなく、むしろ効果は感じている。けれども、今まで通りにはやらない。考えて、調べて、確かめて、テレビCMを使うようになっているようです。

今まで通りじゃ今まで通り儲からない。そういう状況です。勝ち負けもついてきています。だからどうするのか。テレビは次の進化が必要なのです。どこへ進めばいいか、みんなで模索する時になっているのですね。

そんなテレビとネットの先に何があるのか、ソーシャルテレビ推進会議では毎月みんなで考えています。答えはわかりませんが、会社や業界の壁を越えてみんなで考えるのは、とりあえず面白いですよ!

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