テレビ朝日「10万円でできるかな」やらせ問題 “くじ”に“きのこ”、ADが明かす手口

テレビには演出が不可欠である。ましてバラエティ番組ともなれば、視聴率に一喜一憂する制作者が腐心するのもむべなるかな。それゆえ演出に名を借りた「やらせ」が横行するわけだが、さすがにこれはいただけない。何しろ「金券」が仕込まれていたのだから――。

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 コンプライアンスの名の下、少しでもルールから逸脱すれば忽(たちま)ち糾弾され、社会的制裁を余儀なくされるのが昨今の風潮。むろんテレビとて例外ではないのだが、評論家の唐沢俊一氏は、

「テレビとはあくまでもお芝居。我々が観劇で作り話を楽しむのと同じで、チャンネルをひねればウソが行われているのです。例えばクイズ番組は毎回、最後の一問で勝負が決まる展開が多い。どう考えてもおかしいのですが、我々はその不自然さを“お約束”として楽しむべきなのです」

サンドウィッチマン

 世に蔓延(はびこ)る「過剰演出すなわち悪」といった図式は、やや窮屈な感が無きにしもあらず。それでも、以下のケースは話が別であろう。

 今回の舞台は「10万円でできるかな」(テレビ朝日系)。レギュラー出演者のKis-My-Ft2(以下キスマイ)やゲストらが、資金10万円を元手に試行錯誤するバラエティである。

「2017年に深夜枠で始まり、昨年4月からゴールデン帯に昇格、月曜日に概ね隔週で放映されています。出演者が10万円で福袋の中身の良さを競ったり、土地を借りてみたりと様々なチャレンジをする中で、特に人気なのが『宝くじ』を買う企画です。ナンバーズ、スクラッチなどを購入し、どれだけ当たるかを検証する。それを受けてスタジオでレギュラーのサンドウィッチマンが盛り上げるという趣向です」(スポーツ紙記者)

 が、その人気企画で、こともあろうに「10万円」の数倍の資金が費やされ、挙げ句に番組の顛末まで操作されていたというのだ――。

 例えば昨年7月15日には「スクラッチ宝くじ削り旅」と題した内容が放映されている。当時、実際に「やらせ」に加担したアシスタントディレクター(AD)が明かす。

「レギュラーチームのキスマイメンバーと、東山紀之さんらのゲストチームに分かれ、それぞれ5万円ずつくじを買って当選金額を比べる内容でした」

 番組では出演者がくじを買い、削る場面も放映された。一方その裏では、

「私たちスタッフはチーフディレクターの指示で、当たりくじを仕込むため事前にスクラッチを買い込み、削る作業にあたっていました。1枚200円ですから1万円で50枚買え、当たりが出なければ万単位で買い足すよう言われました。で、マスを削り続けるうち当たりがおのずと見えてくる。つまり、全部を削る前にどこにどの柄が出たら当たりになるかという“法則”が見つかるのです」

 あとは法則に関わる箇所だけ削り、当たりと分かれば撮影用に“ストック”していったという。ある番組スタッフも、こう振り返る。

「収録当日、出演者に10万円分をすべて削ってもらうわけにはいきません。そこで『手間を省くため途中まで削っておきました』と、当たりが確実な“ストック”と、買ったばかりのくじとを差し替えていたのです」

「やらせ栽培」も浮上

 サンドウィッチマンをはじめ出演者には、こうしたからくりは知らされていなかったといい、実際にスタッフ同士のやり取りの記録には、概略、以下のような生々しい会話が残っている。

〈もうちょっと当選券がほしい、とチーフから言われました〉

〈追加であと数万円買えないかな。(当たりの)法則が見つからないんだ〉

〈5等当たりの法則は150枚買って見つけました〉

 こうした仕込み作業には本来の資金10万円の数倍の額が注ぎ込まれたというから、番組の実態は「数10万円でできるかな」だったわけだ。

 さて、問題の放映回のくじはキスマイチームが「ワンピース」とコラボの「白ひげスクラッチ」を250枚購入。番組では6等200円をはじめ、3等5万円も1枚当選という成果が映し出されている。もっともこの5万円は、削る前から映されていて「仕込み」ではない。こうした“誤算”もあって当選金は6万8千円。対してゲストチームは「わんにゃんスクラッチ トリプルアタック」を4万円分200枚購入し、当選金の合計は1万7千円という結果であった。

 両スクラッチとも還元率は45%。5万円分購入で2万2500円、4万円分だと1万8千円の当選が期待できるわけで、つまりは余計な細工をせず真っ当に購入しても大差なかったわけだ。が、

「確率的にはトントンでも、実際に収録の日に当たりがなかったら番組は成り立ちません。そのための保険という意味でも、事前の仕込みは必要だったのです」(同)

 とはいえ「金券」を仕込むなど、いささか度が過ぎるのではないか。

 当のテレビ朝日に質すと、

「『スクラッチくじ』企画については、削るマークが9つ前後なので当たりに一定の法則があるのではと番組スタッフが推論し、そのシミュレーションとして10万円以上のくじを購入したこともありましたが、既にスクラッチを削ったくじを番組収録に使用することはできません」(広報部)

 と、やらせを否定するのだが、そもそも企画の趣旨は「宝くじ必勝法」ではない。“法則を見つけるシミュレーションのために買った”とは実に苦しく、前出のADは付言して、

「深夜枠の時代に10万円で土地を借り、キノコを栽培する企画がありました。ところが全然育たず、仕方なくチーフの指示でスタッフがスーパーまでシメジを買いに行き、接着剤で地面に張り付けて栽培したかに装った演出がありました」

 と明かし、これには局も、

「天候不順で農作物が例年通りに発育していない等したため、通常の収穫期のイメージを放送しようと、他から購入したものを撮影に用いていたことがわかりました」(前出・広報部)

 そう認めるのだ。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)が言う。

「当たりを仕込んでおくという発想自体が安直です。ハズレばかりでぼやきながらスクラッチを削る姿も、演出次第では十分面白くできる。それがテレビマンの腕の見せ所でしょう。キノコを仕込むといった罪のないやらせとは異なり、『金券』である宝くじを使って芸能人が当選する姿を映し出し、視聴者の射幸心をみだりに煽るのは、罪のないやらせとは思えません」

 ツチノコやネッシーで止めておけばいいのである。

「週刊新潮」2020年2月20日号 掲載

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