テレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」が、九州電力川内(せんだい)原発の安全審査に関して誤った報道をした問題で、テレビ朝日の吉田慎一社長は30日の定例記者会見で「あってはならないこと。全面的におわびする」と謝罪した。
同社は再発防止策と関係者の処分を検討しているが、識者からは「検証が不十分」との声も上がる。
◆「ミス」強調
問題となったのは9月10日夜の放送。この日、原子力規制委員会が川内原発1、2号機について、安全審査の「合格証」にあたる審査書を決定し、田中俊一委員長が記者会見した。この決定で、同原発は再稼働の条件をクリアした。
同番組は、田中委員長が会見で、周辺の火山に対する安全審査基準の修正を示唆したと報じ、ナレーションで「修正した正しい基準で再審査すべきだ」と批判した。ところが、田中委員長が修正を示唆したのは、実際には火山ではなく、竜巻の審査基準だった。
さらに同番組は、火山の審査基準に関する質問に対し、田中委員長がほとんど応じていたにもかかわらず、その大部分を省き、回答を拒んだように編集した。
吉田社長は30日の会見で、スタッフの取材メモが「極めて不完全で、雑な省略があった」ことが最大の原因と説明。放送されたVTRの内容をデスクがチェックしきれないなど、「ミスが重なった」と強調した。
ただ、同番組は過去にも火山への備えが不十分だと主張しており、メディア論が専門の碓井広義・上智大教授は「世論を反原発の方向へ誘導しようとしたと言われても仕方がない」と指摘する。
◆検証「不十分」
放送翌日の11日、規制委事務局の原子力規制庁には「田中委員長の受け答えはおかしい」などの苦情が相次いだ。規制庁は同日夕、テレビ朝日に「事実誤認がある」と説明を要求。同社は社内調査を行い、12日夜の同番組で古舘伊知郎キャスターが「大きな間違いを犯した」と謝罪したが、誤報の経緯や原因には言及しなかった。
30日の会見で吉田社長は、再発防止策を講じるとともに、番組関係者らの処分も検討するとしたが、その結果を番組で伝えるかどうかは明言を避けた。青山学院大の大石泰彦教授(メディア倫理)は「12日の放送を見ても、なぜ誤報が起きたのか分からなかった。きちんと検証し、視聴者に伝えるべきだ」と話している。