テレビ用語の基礎知識 素人コメンテーターの〝不安増幅マシン〟化 小林製薬「紅麹」問題の取り上げ方に疑問 とにかくテレビ業界は理系に弱すぎ

小林製薬の「紅麹」成分を含む健康食品を摂取した人に健康被害が起きている問題、とても心配ですよね。

私も結構昔からサプリメントを愛用していますし、コレステロールなどの数値が気になるほうですので、問題となっている製品をひょっとしたら使っていたかもしれないな、と思うと、他人事ではない恐ろしさを感じてしまいます。

この原稿を書いている3月28日の時点では、まだ原因が何なのか完全に特定されていませんし、因果関係があるかもしれない腎臓の疾患で亡くなった人が2人(その後、さらに3人増えて5人)ということで、テレビニュースを含めさまざまなメディアが大きく取り上げてお祭り状態に近くなっているのも無理もないと思います。

ただ、いくつかの番組の取り上げ方を見ていて疑問を感じました。薬学や医学などの専門家の意見はパネルでコメントを紹介するだけで、スタジオにいるコメンテーターはタレントや文系の学者さんばかり。スタジオトークで「恐ろしいですね」的な一般人レベルの感想を延々と述べています。

これじゃ、ただでさえ不安を感じている視聴者が多いのに、その不安をひたすら増幅させる方向であおっているだけです。

まあ実際、原因もわからないし怖い話なわけですが、こういう時だからこそ、冷静に対応しなきゃならないし、専門家の解説を聞いて正しい知識を身につけたいと視聴者は思っているはずなのに、「何も分からない人々」ばかりスタジオに呼んでどうする気なのか? と思います。

あれっ? でもなんかこの光景、既視感があるぞと思って気がつきました。コロナ禍とまったく同じ構図なんです。あのときも結構素人コメンテーターたちが無責任に「恐ろしい」とかいろんな「お気持ちコメント」を述べまくったことで、テレビは「不安増幅マシン」と化していましたよね。あの状況にそっくりだなと思いました。

とにかくテレビ業界は「理系に弱すぎ」です。番組を作っているヤツにあまり理系がいない。だからあんまり科学的な見地で取材を進められない弱点があります。プロデューサーやディレクター自身が「科学者の言うことは難しくてよく分からない」と思っているから、あまり積極的にスタジオに呼ばずに、コメント取材くらいで済ませてしまう。

少なくとも、こういう「多くの人が不安を感じるようなニュース」のときには、頑張ってスタジオにきちんと「詳しい専門家」をゲストで呼ぶようにしませんか? 恐怖を無責任にあおるのは、メディアとして絶対ダメですよ。

■鎮目博道(しずめ・ひろみち) テレビプロデューサー。1992年、テレビ朝日入社。「スーパーJチャンネル」「報道ステーション」などのプロデューサーを経て、ABEMAの立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などを企画・プロデュース。2019年8月に独立。新著『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)が発売中。

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