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テレビ離れが加速しています。コロナ禍でNetflix (ネットフリックス) やHulu (フールー) の動画配信サービスの利用が増大しましたが、テレビに関してはむしろ大きく痛めつけられました。そもそもテレビ局は何で儲けているのか?
本稿では、経営コンサルタントの今枝昌宏さんがテレビ業界分析をする際の3つのポイントを挙げ、解説します。
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(1)テレビ業界の動向を映し出す「スポット」のCM収入
CM収入は大きく「タイム」という番組提供と、「スポット」という指定の時間に放送するものに分かれます(図表1)。
(出所)テレビ朝日HPをもとに編集部作成
そのうち景気の影響を受けやすいスポットCMの収入を見ると、2020年の第1、第2四半期には各局とも急激な落ち込みが見られました。
背景にあるのはコロナ禍のステイホーム。このご時世ではCMを出しても無駄だと判断した企業、反感を買うと考えた企業が出稿を控えたことがあります。そうして自粛を選択した企業のCM枠をACジャパンによる公共広告や自局の番組宣伝で埋めると、広告収入は減ってしまうのです(図表2)。
(出所)フジ・メディアHD2021年3月期第3四半期決算資料をもとに編集部作成
中でもフジテレビ(以下、フジ)は、フジテレビを擁するフジ・メディア・ホールディングスは、傘下に抱えるグランビスタホテル&リゾート、サンケイビルなど、テレビ以外のホテルや観光関連の収入の占める割合が大きいことから、コロナの影響を強く受けるという踏んだり蹴ったりの状況です(図表3)。
(出所)フジ・メディアHD2020年3月期決算資料をもとに編集部作成
しかし、2020年第3四半期を見ると、広告収入は急激に回復しています。これは食品や飲料、家電など家庭内需要を主とした企業が、巣ごもり消費を狙って出稿を増やしているからです。
フジが発表しているスポット収入の業界動向からは、広告シェアの入れ替わりがあると分かります。それを見るとコロナ禍の影響は一時的なものであり、「テレビはもう終わり」と早計に判断できなくなります。
1つだけ言えるのは、社会全体がネット依存を強めたということです。それにより今後テレビ業界はさらに厳しい状況に追いやられていくことでしょう。また視聴者だけでなく、これまでテレビを稼ぎの中心としていた芸人たちも、テレビ局や芸能事務所を通さずに自身でYouTube配信をするという「中抜き」を始める契機になりました。
東京のキー局でこの状況です。準キー局はもとより、その他の地方局はさらに厳しい状況になっています。東名阪以外の地方テレビ局は、基本的に県単位で放送免許が与えられているため、事業規模が小さく、財務体力が弱いです。
今後の人口や世帯数の減少を考えると地方局のCM収入の減少速度は早まるでしょう。さらに、キー局がインターネットで地上波と同じ内容の再放送を始めると、地方局はその存在意義をより問われてきます。 逆にこれをキー局側から見れば、今後どのように全国ネットワークを維持するのかが課題となります。
(2)テレビ業界復活の兆しは? 命運握るZ・ミレニアル世代の動向
キー局5社の視聴率は2005年頃をピークに下落し続けています。特にテレビ局にとって稼ぎ時のプライムタイムと呼ばれる19時〜23時の時間帯の視聴率は、6時〜24時の全日よりも激しい落ち込みです(図表4)。その分、テレビ局のダメージは大きいといえます。
(出所)ビデオリサーチ
視聴率低下の原因は、視聴者の時間の使い方がテレビからインターネットへと移行しているからです。実際、2019年にインターネット広告費はテレビメディア広告費を上回っています(図表5)。
(出所)電通
中でも視聴率の落ち込みが激しいのはやはりフジです。2005年時点では、圧倒的な1位だったフジの視聴率はその後急速に低落を続け、今やテレビ東京をかろうじて上回る民放第4位で、NHKを含めると第5位になっています(図表4)。
フジの視聴率低下は、かつて「軽チャー路線」と呼ばれたトレンディーで軽い、バラエティー中心のコンテンツを視聴していた層がYouTubeのポップで尖った内容の映像に移行していることがあります。
財務報告を見ると、CM収入の低落を埋め合わせるために番組制作費を減らしていることが分かります(図表6)。制作費の削減が番組内容の低下を招き、視聴者が離脱してCM収入が減るという負のスパイラルに陥っているのです。
(出所)フジ・メディアHD2020年3月期決算資料をもとに編集部作成
Z世代やミニレアル世代を中心とする若者のテレビ離れが進んだことで、視聴率を取るために年配向けに番組を制作する。すると若者がさらに離脱するという負のスパイラルも起こっています。顧客層から若者が真っ先に離脱している業界の行く末は暗いでしょう。
(3)テレビの衰退に拍車かけるNHKは、どう変わるべき?
一方で、民放各局と全く違うのがNHKです。NHKの受信料収入は視聴率の低下をよそに年々増加しています。その背景には、受信料の徴収率の上昇があります。2019年度に微減となっているのは、コロナ禍で年度末に戸別訪問できなかったからでしょう(図表7)。
(出所)NHK2005年度〜2019年度決算書をもとに編集部作成
NHKの受信料はテレビ受像機を設置した時点で発生します。その事実を知った若者は、はたして受像機を買うでしょうか。携帯やインターネット回線で増えた出費を埋め合わせるために、固定電話と同じようにテレビが切り捨て対象になるのは自然な動きです。テレビ受像機を買わなければ、当然ながら民放も含めてテレビを見ることはありません。
今後はNHKの存在がテレビ業界の衰退に拍車をかけることになるでしょう。中立的で国益を代表する報道機関が必要なのだとすれば、その役割に限った、もっと国民負担の軽い国営放送へと変化することが必要です。
(動画制作・大口遼、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・小倉宏弥)