テレビCM×テクノロジーの変遷とこれからの活用法

デジタルマーケターの中だけで議論されてきた感も強いアドテクノロジー。しかしマス広告、特にテレビCMとの連動など、組み合わせることでマス広告自体の 効果・効率を高めることにもつながります。ここでは、マス広告の担当者も知っておきたい、デジタルテクノロジーについて解説します。

デジタルとテレビのお互いの向き合い方

今年7月に、スマートテレビ向けコンテンツの制作を推進するHAROiD(ハロイド)への出資を電通も含めた数社が発表しましたが、私は本格的にテ レビでのインタラクティブ(双方向)コンテンツ企画の実現を推進しようとする動きが強まっている状況と見ています。また、Netflixが日本上陸し、ス マートフォンデバイスでの視聴だけでなくテレビのリモコンに専用ボタンが付くなど、テレビのデジタル化が外部プレイヤーによって強制的に進んでいっている 状態でもあります。そうした中、急成長を続けるデジタルの広告手法がテレビの世界にどのように持ち込まれるのか。その未来を予測するには、まずはテレビと デジタル双方への向き合い方の変遷を知っておくことが良いのではないでしょうか。

2004年頃、デジタルサービスが伸びていく中、フューチャーフォンでコンテンツビジネスやECを展開していたプレイヤーが、CMやOOHといった マスの広告投下に積極的な時期がありました。しかしながらその結果、CMを流してもCV(コンバージョン)が悪く、デジタルサービス企業がユーザーを捕ま えたいなら、デジタルの中で刈り取らなければ効率が悪いとされていました。

一方で、ナショナルクライアントにおいてはマス的にリーチできるテレビCMの効率性が経験則的に価値あるものと理解されてきたので、一部の広告枠を 除いてリーチの量で劣るデジタル広告の活用は限定的でした。データの可視化という強みに軸足をおいて費用対効果が明確な領域、いわゆる刈り取り周辺の施策 が中心で、広告におけるデジタルとマスの世界はセパレートされてきました。

テレビCMの活用が限定的なネットサービス企業、デジタル施策の活用が限定的なナショナルクライアントと分断した状況が続きましたが徐々に融合をし ていきます。融合を図る過程で出てきたのが、テレビのマスリーチ価値をデジタルでCVにつなげていくアクション。具体的には「続きはWebで」「○○で検 索」など検索連動型広告で、マスで膨大な人数にリーチしてからデジタルに効率的に引き込んでいくようなものです。

この流れが出始めた背景にはCPA(コンバージョン単価)による広告モデルがデジタル広告の分野で確立されたことが挙げられます。アフェリエイト (成果報酬型)広告もそうですがCPAという概念が浸透し、検索から顧客誘導を図る上で効率の良い(獲得単価が低い)指名ワード(ブランドネームやCM上 でのコミュニケーションワード)を見つけ、いかにしての誘導に要する単価を下げるかが重要なテーマになっていきました。CPAを低下させ、効率を高めるに はデジタルだけに閉じた施策では限界が出てきます。そこで、これまで別々に展開していたテレビCMでのリーチも、デジタルでの顧客獲得につなげる必要性が 生まれてきました。

加えてナショナルクライアントもデジタルを専業とするEC事業者などとも競合として、戦わなければいけない環境になっていきます。消費者の行動を見 れば、デジタルが顧客獲得の接点として重要な競争ポイントになってきているのは明白な事実であり、テレビCMとデジタルの融合が求め始められるようになり ます。

ディスプレイの役割を超えられないテレビ

近年スマートテレビの普及など、テレビのインターネットへの結線率が上がってきてはいますが、テレビがネットにつながることでテレビが革新的に変化 したかというと、まだまだこれからです。スマートテレビの発想で定着化してきているのは、スマートフォンで受けたデータを、テレビをディスプレイとしてミ ラーリングすること。STB(セットトップボックス)とその役割が重なりますが、インターネット経由で受けたデータを出力する機能を切り出したHDMI差 し込み型機器をテレビに差し込んで使うといったものです。しかし単純にそれは、大きなディスプレイとしてのテレビでしかありません。

2011年のアナログ停波で、放送がデジタルになる中で意外と注目を浴びたのがデータ放送の双方向通信。リモコンに付いた赤青緑黄のボタンを使って できるテレビ連動型番組や、朝の情報番組によるミニゲームなどです。広告のアプローチも同様の仕掛けは利用できそうですが、有効活用されていません。デジ タル化されたテレビの仕様をCMが消化できていないというのが実情です。2012年に音声認識技術を利用してCM放送中のテレビ画面にアプリを起動したス マートフォンを近付け、音声を認識させると連動したゲームコンテンツを楽しめる。というようなことも実践されましたが、なかなか上手く使えていません。テ レビCMが15秒、30秒という限られた時間の中で行うアクションとしては、ユーザーにとって重すぎる作業であることと、そのアクション(機能)がコンテ ンツに対して、親和性があるかという課題を超えられていないのが理由かもしれません。

コンテンツとスマホの機能活用に意味を持たせた良い事例も出てきていますが、今後も、ハイブリッドキャストなどの新しい規格や仕様が出てきますので、常にその技術を有効に活用する企画や取り組みは課題として残り続けるのかもしれません。

プラットフォーマー側のテレビデータ活用

今のRTBのプラットフォーマー同士の戦いにおいては、競合が持っていない有益なデータをどう持っていくかが競争ポイントであったりするので、マス メディアとしてのテレビに関するデータを取り込めるかは、長らく検討事項になっています。一見遠いように思いますが、すでに商品比較サイトではテレビのメ タデータを使って、『今テレビで話題となっている商品はこういうものです』と、レコメンデーションによるユーザー誘導を行っています。テレビには番組内で 取り上げられた情報が正規化されたデータとして存在しているので、それを活用すれば、ユーザーが興味を持ったと予測できるタイミング(その商品がテレビで 取り上げられているタイミング)でデジタルの広告を出すこともできるのです。

テレビ番組のコンテンツをメタデータ化したものは「マスにウケる情報がフィルタリングされ蓄積されている」という点で価値があると言えます。加え て、前述したようにこのデータをデジタル上での検索などのユーザー行動と重ね合わせると、テレビ視聴者をデジタル世界で特定し、広告を配信することもでき ます。

しかしながら、テレビ側から供給されるデジタルデータで公式に利用できるものはあまりありません。またメタデータには、「後メタ」「前メタ」の2種 類があり商品比較サイトで使われていたものは、テレビ番組などの「いつ」「どこで」「何が」「どのように」「何秒間」放送されたのかといった内容を書き起 こして、データベース化された「後メタ」になります。

一方、テレビ局には放送される前にあるメタ情報、「前メタ」が存在しています。しかし、それは一般プレイヤーが使えるように公開されていません。そ うなるとアドテクのプラットフォーマー側が、シームレスなリターゲティングを実現するための選択肢としてテレビのデータ活用を入れるのは、まだ先のことか もしれません。ただそのドアが開けば、雪崩式にテレビデータのデジタル領域での活用が進んでいくと思います。

テレビがデジタルをどう活用していくかという考え方と、テレビをデジタル領域がどう利用していくかの両面ありますが、まず現状できることとして、コ ミュニケーションやクリエイティブでどう今のデジタルとマスを上手く組み合わせるのかを考えるのが優先でしょう。ただ技術的にはこうした活用が可能なこと は分かっているので、それを前提とした施策を今から先んじて考えておくことで、新しい門が開いたときに他社から抜け出ることができるかもしれません。

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