新型コロナウイルスの感染拡大は、ついに「第三波」に突入した様子。一日あたりの感染者数は日々更新されつつある。首都圏、都市部のサラリーマンの多くが再び「テレワーク」体制への移行を余儀なくされている。春頃は「会社に行かなくてラク」とか「嫌な上司の顔を見なくて済む」などと喜ばれていたテレワークだが、「思わぬ欠点」も明らかになってきている。
◆「何時でもいいからやっといて」と仕事が降ってくる
東京都内在住の業界新聞社勤務・千田逸郎さん(仮名・40代)が肩を落とす。
「出社していた時と、時間外労働の多さはさほど変わりません。むしろWebを使ったミーティングのための準備や、マニュアルの作成などで以前よりやることが増えてしまったのです」(千田さん、以下同)
かつての千田さんといえば、9時始業にもかかわらず、ほとんど毎日7時頃には出社し、1~2時間の残業は当たり前。週末やプロジェクトの締め切り日前などは午前0時近くまで仕事をすることも珍しくなかった。
そして今年、4月中旬ごろから「テレワーク」体制に入ったというが……。
「最初は早出残業しなくて済むと喜びましたが『何時でもいいからやっといて』と上司から仕事が降ってくる。私が会社に残り、忙しそうにしていると振りづらい仕事も、リモートになるとかなり気軽に振られているようなのです」
当初はラクになると思っていた、ブラックからホワイトに変化する、などと淡い期待を持っていた人ほど、今は現実に打ちひしがれている様子が見て取れる。
◆自宅にいるぶん、本当の「休み」がなくなった
横浜市内の社会福祉法人に契約社員として勤務する森野沙耶香さん(仮名・30代)もそんな一人。
「一昨年ごろから体の調子が悪く、仕事を休みがちだったので、自ら希望して正社員から契約社員になったのです。出勤した分だけしか給与は頂けませんが、後ろめたさを感じることなく療養できるようになったんです」(森野さん、以下同)
そんな森野さんを襲ったのが「コロナ」だった。病弱のため、一般の人々に比べればリスクがある。一方で、森野さんの仕事といえば全て事務作業。会社の上司は「在宅でいいよ」と声をかけてくれた。
「これぞ私が求める働き方だと思いましたよ。5月ごろから在宅勤務を開始し、最初の1か月ほどは本当に救われた気持ちでした。素晴らしい働き方だって」(森野さん)
ところが、森野さんの体調はやはり万全とはいかず、ある朝調子を崩し、布団から起き上がれなくなったのである。普段なら「体調不良」を上司に伝え、薬を飲んで寝るか、病院に行くか、というところだが……。
「在宅だから、病院に行かないなら仕事をしてね、無理のない程度で、と言われるんです。無理だから仕事を休みたい、と言っているのに、在宅だからやって、となる。無理のない範囲で、と言われても無理してやるしかない。以前に比べ、仕事を休むためのハードルが高くなった気がします。這ってでもパソコンの前に行かないと。本当に休みたい時は、救急車で運ばれるか意識を無くして倒れるしかないのかなって」
◆“1日1000円”の昼飯代がストップ
「思わぬ欠点」といえば、サラリーマンにとっていちばん重要なあの「問題」も。福岡市在住の建設コンサルタント会社勤務・野中善彦さん(仮名・40代)が話す。
「月の小遣いはなんと1万円。同僚の三分の一以下です。それでも昼飯代は毎日1000円もらえていたため、500円の弁当を買って500円は貯めるとかして、月に何度かは飲みに行ったり、趣味のパソコンソフトを買うなどしていました」(野中さん、以下同)
野中さんは、妻と4人の子供の6人暮らし。35年フルローンで買った戸建てマイホームの支払い、家族全員で乗れるようにと中古で買ったワンボックスカーの支払いに追われ、同僚より自由にできる金は少なかった。だが、うまくやりくりをして人付き合いも欠かさなかった。
しかしコロナ禍以降、野中さんは完全リモートワークに。5月以降、出社したのは両手で数えるほど。その結果何が起きたかというと……。
「妻は仕事、子供たちは学校で、自宅には私一人。昼食は『自分でできるよね』と妻に言われて、頼みの綱だった“1日1000円”もストップ。自宅にあるものでなんとか済まそうとするのですが、大家族なので朝夜でみんな食べ尽くしちゃって、冷蔵庫は空っぽ。近くのホームセンターで一個80円で売っているカップ麺と子供たちの残した冷凍ご飯が、この半年ほどの昼食です。おかげさまで15キロの減量に成功しましたが、頬はこけ、病人のようです」
さらに節制を求める妻は、野中さんが毎日自宅にいることで爆上がりした光熱費にも注目。
「夏はクーラーを入れるな、と言われ、半裸で仕事をしていました。その結果、汗をかきすぎてやはり痩せましたね。冬場の暖房もダメ、ということで、会社で支給された避難グッズの毛布を体に巻いて過ごそうと思っています」
◆終業時間を迎える頃には泥酔
テレワークの弊害というよりも、妻との関係改善が先ではないか、という指摘も聞こえてきそう。最後に「思わぬ欠点」を語ってくれたのは千葉県在住のアパレル会社勤務・斉藤義政さん(仮名・30代)。
「出社だったら絶対にやんないですよ、だからリモートは嫌だって言ったんです。リモートだったら、絶対やばい、我慢できないって、ちゃんと言ったんです。でも会社には来るなって、僕のせいですか?」(斉藤さん、以下同)
実は斉藤さん、無類の酒好き。酒での失敗は枚挙にいとまがなく、休日などはうがいよりも先に缶ビールを開けるほど。それでも仕事中は「飲まずに過ごせていた」というのであるが……。
「僕だって、いくらなんでも会社のデスクでは飲みませんけどね、自宅にいると、やっぱりね。気がついた時にはプシュッて。少しくらい酔っていても仕事はできるんですよ、ホント。そこで飲むのをやめりゃいいんですけど、どんどん飲んじゃうじゃないですか」
終業時間を迎える頃にはほぼ泥酔して寝ているという始末。
コロナ禍で会社の業績が落ち、給与はすでに三分の二に。社内全体が諦めムードだから、斉藤さんに苦言を呈する人もいないんだとか。
「テレワークだって最初は喜んだんですよ、会社に行かなくていいからラクだって。でも、世の中でテレワークが進むと外に出なくていいから、みんな洋服がいらなくなる。そのことに気がつくのが、遅すぎましたね」
斉藤さんにとっては、これも思わぬ「テレワークの欠点」だったようだ。<取材・文/森原ドンタコス>