ディズニーで進む「デジタル音痴の排除」の真因

このところ、株価が下落基調にあるオリエンタルランド。ディズニーで今、どんな変化が起きているのだろうか?(筆者撮影)

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの株価が今年に入って下落している。

2024年1月19日には1株5562円だったのが、11月22日は3382円となっていて、4割近くの値崩れを起こしているのだ。

同社の株価の推移を見てみると、2014年あたりからじわじわと上昇を続け、コロナ禍で一度停滞した後、2023年に天井を迎える。それが一転して、2024年は基本的に下落の一途を辿っているのだ。11月22日以降は少し戻しているものの、低調な推移なのには変わりない。

下落の背景には、同社の主要株主である京成電鉄に対する株の売却圧力(実際、京成電鉄は保有株の1%を売却した)がある。京成電鉄が株を売却することで、その供給が過多になり、株価の下落が予想されているのだ。

もう一つの要因として重要なのが、オリエンタルランドの中間決算での業績不振だ。株主から見て、同社の先行きやイメージにマイナスの要因が出ている可能性がある。

高級化するディズニーと「静かな排除」

業績悪化の原因として、オリエンタルランドは「リベンジ消費の落ち着きなどによる旅行需要の減少」「猛暑」を挙げている。確かに、屋外移動が主となるディズニーリゾートでは、暑さの影響は免れない。

しかし、昨今の報道を見ていると、客足を遠ざける要因の一つになっていると感じるのが「パーク全体の割高感」だ。

【画像8枚】若者離れが進み、すっかり「お金持ちのための国」になりつつあるディズニーランド。来場者の年齢層の変化は?

ここ数年、ディズニーランドはチケット料金の値上げを含めた戦略を繰り返し行っていて、2023年にはチケットが1万円を超える日も現れた。そこにパーク内での飲食やお土産代が加わるし、アトラクションへの優先搭乗券である「ディズニープレミアアクセス」も有料になっている。

オリエンタルランドが発表しているファクトブックによれば、2023年4月時点でのディズニーリゾートの一人当たり売上高は1万6644円。この数値は2020年以降、毎年ほぼ1000円ずつ高くなっている。

ますます夢の国から現実の国へ、もっと言えば修羅の国へと化しているのが、ディズニーリゾートの現状なのかもしれない。いうなれば、富裕層以外を「静かに排除」している状態ともいえる。

もちろん、こうした値上げは昨今のインフレを鑑みれば当然のことだ。さらに、ここ10年でフロリダのディズニーランドのチケット代が2倍になるなど、諸外国のパークからすれば、むしろ値上げ幅は抑えられている。しかし、ここは外国ではない。消費者からすれば、割高感を持たれてしまっていることは否めない事実だ。

こうしたイメージから、客足が離れてしまったことは十分に予想できるだろう。

「ディズニーの若者離れ」報道も悪い印象を与えたか?

ファクトブックによれば、近年のディズニーリゾートは、40歳以上の来園者が増え、若年層の入園者が減っているというデータがある。

2019年3月には21.2%だった大人(40歳以上)の割合が2024年3月には33.2%と急増。一方で、大人(18~39歳)の割合は同期間で50.7%から41%と減少。中人(12~17歳)はほぼ横ばいだが、小人(4~11歳)も15.2%から13.4%と減少している。大人(18~39歳)の範囲が幅広いため断定的には言えないが、若年層の減少と高齢者層の増加が起こっている。


コロナ前は「大人(40歳以上)」の割合が20%程度だったが……(出典:オリエンタルランドの2019年ファクトブック)


直近のデータでは、3分の1を占めるまでに増加している。また「中人」「小人」を合わせた数値も、30%程度から25%程度になり、数ポイントの減少が見られる(出典:オリエンタルランドの2024年ファクトブック)

こうした高級化と若年層の客離れが、一部報道では「ディズニーの若者離れ」としてセンセーショナルな形で報道され、それらがどことなくオリエンタルランドの先行きの不透明さを表しているようにも思えてしまったのだろう。

もちろん、オリエンタルランドは企業であり、利潤を上げるために顧客の選択を行っているにすぎない。

ただ、どうしても「ディズニー=夢の国」という印象が強いこともあって、その落差が客足を遠のけたり、ひいては株価下落に影響を及ぼしたりしている印象が否めない。

「デジタル以外お断り」というもう一つの「選択」

ところで、こうしたディズニーのイメージ低下は「高くなって金持ちしか行けない」以外にも原因があるようだ。

それが、「スマホ使えないやつら相手にしてません」感だ。


アプリ入場がほぼ前提となり、今では紙チケットはレアになった(写真は筆者によるスクショ)

Rょーへー(R)さんがXで「オリエンタルランド現地調査結果」としてまとめた長文には、「ほとんどすべての施設機能がアプリを使えることが前提になっている」という旨の記載があって、それが大きな反響を呼んでいた。

この投稿には、多くの賛同が集まった。ディズニーリゾートは今や、「デジタルに対応した人以外に優しくない」施設だと、どことなく思われているのだ。

確かに、ディズニーはコロナ以後、基本的には専用アプリが無ければ入場できないシステムに移行している(紙チケットもあるにはあるが、レアだ)。

アプリ上に表示されるチケットをかざさなければ園内に入れないのだ。レストランやショーの予約なども、このアプリを通してしかできない。

さらに「ディズニープレミアアクセス」はアプリ上でしか買えないため、キャッシュレス決済ができないとアクセスが難しい(まさに「プレミアアクセス」の名前通り)。

こうした意味でも、ディズニーは「ITをそこそこ使える人」を客として選択していて、そうでない人、いわゆる「IT弱者」に対する「静かな排除」が起こっている。

ちなみに、キャッシュレス決済を使う層は、所得が高いことはアンケートでも明らかになっている(「年収で現金利用とキャッシュレス決済に差 年収が低いほど現金派が増加」/ITmedia ビジネスオンライン、2024年5月29日)。


東京ディズニーランドの前にあるボン・ヴォヤージュ(筆者撮影)

したがって、結局はこうした「IT弱者排除」もまた、遠巻きに富裕層をその顧客層として選択していることにつながるだろう。


スマホの操作に不慣れだと今のディズニーは満足に楽しめないし、そうでなくともスマホの電池残量を気にする場所になっているかも(写真は筆者によるスクショ)

オリエンタルランドは、こうしたさまざまな政策で来場客をコントロールしようとしているようだ。

しかし、これがどうも人々にはよく受け入れられていないのが今の現実なのだ。

ただ、こうした「静かな排除」の傾向は、なにもディズニーランドだけで起こっているわけではない。むしろ、全都市的に発生しているといってよい。

最近東京に爆増する「再開発」されて新しく誕生した高層ビルの多くが、富裕層やインバウンドに向けられており、似たような形をしていることを私は東洋経済オンラインに寄稿した記事「東京で急増『貧しい日本人を排除するビル』の矛盾」で指摘した。

高層階にはラグジュアリーホテル、中層階はオフィス、低層階にはお高めのレストラン。庶民がふらりと入るには、立ち入れなかったり使えない場所が多すぎる。

むろん、こうした流れは上昇の一途を辿る地価を効率よく賄うためにはある程度必要な流れだろう。ただ、結果としてこうしたビルばかりが増えることにより、ある所得以下の人々が街から「排除」されているようにも思えるのだ。

階層が固定化し、都市が変化し、また階層が固定化

こうした流れの底には、「一億総中流」の幻想が崩れ、それぞれの階層が固定化される現代にあって、その階層に対応した都市や商業施設が誕生していることがあるだろう。

簡単にいえば、たくさんの人をその街や施設に入れて「量」を取る方向から、それぞれの階層の人を満足させる「質」を取る方向へと都市全体が進んでいる。都市機能の「分化」が進んでいるのだ。


こちらはトー横広場の真横に建つ東急歌舞伎町タワー。海外富裕層向けのホテルが上層部に入っているが、ホテルの中にはブランドショップなどが入居しておらず、一部では「ミスマッチ」との指摘もある(筆者撮影)

都市がこのようになっているのだから、一企業であるオリエンタルランドがそうなっていくのも当然の流れではある。

資本主義が加速すれば、消費の在り方も変わるし、消費者の受け入れ方も変わるということだ。

デジタル技術は平等を作るのではなく、「人々の選別」を行う

さらに「デジタル技術による客層の選択」もしばしば見られる現象だ。

ライター・編集者の速水健朗は、自身のポッドキャスト『これはニュースではない』にて、日本橋に誕生した「カミサリー」というフードコートはキャッシュレス決済オンリーになっており、こうすることによって、ひっそりとそこに来る客層を選択していると指摘している。

速水は、本来人々を平等にするはずだったテクノロジーがむしろ、人々を選別する機能を果たしていることに注意を向ける。

確かに、テクノロジーは本来、何かができない人を補助する役割だったはずだ。インターネットは世界のどこにいても同じ情報が手に入るツールで、その意味では世界の格差を無くすツールだった。だが、それがいまや、人々を「選択」するツールになっている。

むろん、それぞれの店舗がこうした方向を取ることは批判すべきことではない。それは、店舗ごとの経営だからだ。

ただ、実はこうした些細な部分に、人々の格差が生まれていることは注目すべきだろう。

キャッシュレスオンリーになっている場所は、だんだんと増えてきている。しかし、その裏には、ディズニーランドにも見られる「静かな排除」があるのだ。


筆者はフィールドワークを通じて、今の東京について論じてきた。そこでは「貧乏な日本人の排除」が起きているが、他方では「デジタル音痴な人の排除」も進んでいるのだ(筆者撮影)

「客層の選択」がディズニーにもたらす影響は?

株価が下がっているとはいえ、オリエンタルランドの2024年3月期決算では、売り上げ、利益共に過去最高額を叩き出している。また、2025年3月期の中間決算で、前年同期比で最終利益が減少していることについても、下半期で挽回していく可能性も十分に残されているだろう。

実際、同社はたくさんの入園者を入れて「量」を取る方向から、少ない来園者の消費額を増加させて「質」を取る方向へ舵を切ることを明言している。

この流れの中で、チケットの値上げやIT化が進められてきているわけで、決算を見る限り、その戦略は成功しているように思える。

しかし、今回見てきたように株価が下がっていることを見ると、こうした政策はそれ以上の影響をオリエンタルランドにもたらしてしまうかもしれない、とも思える。資本主義が行き過ぎた結果、「夢の国」から夢が完全に失われてしまったとしたら……。

今後の説明会で、どのような方向が示されるのか。これまで以上に顧客の選択を行うのか、あるいは異なるビジョンが示されるのか。注目したい。

(谷頭 和希 : 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)

東洋経済オンライン
タイトルとURLをコピーしました