キヤノンなどカメラ、電機メーカー各社は、2011年3月期のデジタルカメラ出荷を前年度比7~41%増と、軒並み大幅に増やす計画だ。国内市場は飽和状態にあるが、中国を中心とする新興国市場は拡大基調にある。各社とも、新興国市場での事業拡大を目指し、販売強化策を打ち出す。
◆富裕層囲い込み
キヤノンは、中国国内の販売拠点を数年内に現行の18拠点からさらに増やし、カバーできる地域を拡大するほか、カメラのスピード修理拠点を年内に倍増させ、アフターサービスも強化する。
一方、オリンパスは、低価格モデルのラインアップ強化に乗り出し、数量ベースでのシェアアップと認知度向上を狙う。
デジカメ世界シェア1位のキヤノンは、販売拠点を増加させる一方、アフターサービスに力を入れ、ブランド力向上を狙う。カメラの故障などを1時間程度で修理できる「クイックリペアセンター」を現行の13拠点から、年内に25拠点に倍増する。
また、プリンターや複写機の代理店でもカメラの修理や代理店への取り次ぎなどができる体制も整える。一眼レフやコンパクトでも中高級品に強い同社ならではの顧客囲い込み戦略といえる。
一眼レフなど中高級品に強いニコンも「あえて新興国向け低価格モデルは投入せず、富裕層を中心に順調に売れている上位機種の販売をより強化する」としている。
◆低価格機にも力
一方で各社は、富士フイルムが新興国向けに開発した“100ドル未満デジカメ”の積極投入で先鞭(せんべん)を付けた低価格コンパクトデジカメの市場開拓も加速させる。
オリンパスは、今年3月から中国の大手家電量販店との直接取引を開始し、新製品投入のスピードを高める施策で差別化を図る。特に、「149ドル以下の低価格機に注力する」(広報・IR室)とするように、富裕層のみならず、低所得層も取り込み、中国でのシェアを確保したい考え。「全世界で前年度比300万台上乗せするうちの4割近くは中国をはじめとする新興国市場で稼ぐ計画」(同)と期待を込める。
中国におけるデジタルカメラの日本メーカーの対応は、単価を維持するため中高級機で勝負する企業と、低価格モデルの大量投入により、数量ベースでシェアを獲得し、ブランド認知度を高めようとする企業の二極化が一層進むものとみられる。
もっとも、コンパクトデジカメは、一眼レフカメラなどと比べ、どうしても価格競争に陥りがちだ。JPモルガン証券の森山久史シニアアナリストも「低価格モデルで数を稼ぐにしても、利益を出す明確な戦略がないと、むしろデジカメ事業全体の足を引っ張ることになりかねない」と指摘する。加えて、10年3月期コンパクトデジカメの世界シェアは、キヤノン、ソニーに次ぎ、韓国のサムスンが3位に躍進するなど、日本メーカーだけでなく海外の強力なプレーヤーが増えていることも事実で、より厳しい競争が予想される。デジカメ各社は、出荷増の計画に合わせて収益の改善する計画を打ち出しているが、カシオ計算機など、コンパクト中心で展開するメーカーにとっては、価格競争に巻き込まれずに、独自色を打ち出した差別化戦略を打てるかがカギとなりそうだ。