【デジタルツール考】「○○って何ができるの?」。デジタルツールに関する記事は、突き詰めると、この質問に対する答えの繰り返しである。いまなら、○○の中には「スマホ」や「クラウド」という言葉が入るだろうし、かつては「パソコン」や「インターネット」だった。
夕刊フジのデジタル面が1996年6月からもう16年以上も続いているのも、「何ができるか」分からないデジタルツールが次から次に登場しているからだ。最近でいえば、その筆頭はやはりスマートフォンだろう。
従来の携帯電話なら、まあ電話の一種だから分かる。携帯メールも何となく理解できる。だが、スマホは“電話”でありながら書籍や動画が見られたり楽器演奏もできる、果ては放射線量まで測れるとなると、一体何がどこまでできるのか分からなくなる人もいそうだ。
だからこそ、「何ができるか」を伝えることは重要だ。スマホ・メーカー各社の担当者も知恵を絞っているはずだが、その最大の“見せ場”であるテレビCMには、かなりバラツキがある。
秀逸なのは、やはりiPhoneのCMだ。iPhoneの画面を“主役”にして、この製品で「できること」をわずか30秒の中にきっちり詰め込んでいる。韓国サムスン製のギャラクシーS3のCMも若干情緒的ではあるが、各社横並びで特徴を示すのが難しいアンドロイドOSのスマホの中で、製品独自の機能を強調することにより差別化を図っている。
総じて、海外メーカー製スマホのCMは「できること」を前面に出すオーソドックスな手法で、スマホ初心者にも分かりやすいと思う。「何ができるか」をCMで“予習”できれば、消費者も買い替えの決断がしやすいだろう。販売店の店員も製品の説明がしやすいはずだ。
問題は国内メーカーのCMだ。一体、誰に向けて何を伝えたいのか理解しがたいCMが多すぎる。その最たるものは、スポーツ選手やバレリーナ、チアリーダーらが派手に動くシーンを延々と流し、最初と最後に製品名だけを出すという某メーカーのイメージ(?)CM。このCMを最初に目にしたときは、その意味不明さに卒倒しそうになった(というのは、まあ言い過ぎだが…)。
私はCM制作については門外漢だが、デジタルツールの紹介を16年間行ってきた経験から言わせてもらうと、デジタルツールをイメージで紹介するのは、一番やってはいけないことだ。読者や視聴者などの受け手をただ混乱させるだけだからだ。
そして、二番目にやってはいけないのが、専門用語をちりばめることだ。とくに、CMで専門用語を出すのはいけない。記事の場合は、文中でいくらでも詳しく説明できるが、15秒や30秒のCMでたとえば「デュアルコア」なんて用語を出すのは感心しない。CMを見る多くの人にとっては無意味な言葉であり、それを搭載した技術者たちの自己満足に過ぎないからだ。
当デジタル面にかぎらず、ネットメディアも含めたさまざまな“活字”媒体の記者たちは、少しでも多くの人たちにデジタルツールの便利さを理解してもらおうと知恵を絞って原稿を書いている。そんな記者たちにとって、メーカーが大金を投じて流す無意味なCMは、ただただ腹立たしいだけなのである。(佐々木浩二)