熊本県内の小売店でトイレットペーパーの買い占めが相次いでいる。「新型肺炎の影響でトイレットペーパーがなくなる」といった情報がツイッターなどで拡散したためとみられるが、製紙業界団体はその情報を「デマ」と否定。ただ、買い占め現象は全国で熊本だけとみられ、業界団体などは「なぜ」と首をかしげている。
熊本市中央区の「下川薬局さくらまち店」では27日夕からトイレットペーパーやティッシュペーパーを買い求める客が突然増え、約1時間で売り切れた。西村友孝(とものり)副店長(45)は「マスクは供給が止まっているが、トイレットペーパーはそんなことないのに」と目を丸くするばかりだ。
ツイッターには「アルコール、マスク品薄に続き『今後はトイレットペーパーの不足が予測されている』とのことです」といった書き込みや、商品がなくなった店の写真の投稿が相次いだ。その一方で「トイレットペーパー品薄はデマ。だまされないで」と呼びかけるコメントも多数投稿されている。
国内の製紙業39社が加盟する日本家庭紙工業会(東京)などによると、SNS(会員制交流サイト)上で「マスクとトイレットペーパーの原材料は同じ。マスクの増産に伴って次は紙製品が品薄になる」といったデマが広がったという。
しかし、国内で流通するトイレットペーパーの原材料はマスクと全く異なるパルプなどで、北米や国内で調達されてほとんどが国内生産されている。
その上、2019年10月の消費税増税後は駆け込み需要の反動で多くのメーカーが余剰在庫を抱えているという。同工業会の担当者は「商品を切らしている加盟者は1社もない。一時的に店頭からなくなってもすぐに補充できる」と強調する。
ところが、27日時点で買い占めの情報は熊本から寄せられるものばかりで、同工業会も「買い占めは熊本県内の局地的な現象」との見方を強めている。
では、なぜ熊本だけで買い占めが起きているのか。同工業会の担当者は「熊本地震で物資がない苦労を味わった経験から、他県の人たちより不安に駆られやすいのではないか」と16年4月の熊本地震の影響を挙げる。
真相は謎だが、27日夕、熊本市中央区の女性会社員(44)は同僚から「買い占めが起きている」と聞いてドラッグストアに駆け込んだ。最後の一つのティッシュペーパーを買った後、ネットニュースで「品薄はデマ」と知り驚いた表情。「トイレットペーパーは売り切れていたのであわててネットで買ってしまった。うその情報に惑わされて、もう嫌」とうんざりした様子だった。【清水晃平】