世界初のハイブリッド車(HV)として登場した初代「プリウス」の発売から15年――。トヨタ自動車のHVの販売が、今年3月末まででついに累計500万台を突破した。初代「プリウス」の開発責任者を務めた内山田竹志副会長は、「感無量。よくぞここまで普及してくれた」と感慨深げに話す。
トヨタをはじめとする自動車各社の相次ぐ商品投入もあり、環境意識の高い先進国ではHVの普及が加速している。HVの強みは、既存の燃料インフラを活用して燃費を大きく伸ばせる点だ。
■国内ではトヨタ新車の4割がHV
2012年にはトヨタの販売全体のうち、HVは世界で14%、日本では40%を占めた。日本国内の12年度ブランド別販売ランキングではHV専用車「アクア」「プリウス」がワンツーフィニッシュ。専用車でなくても、「クラウン」や高級車「レクサス」シリーズなどのHV仕様も好調だ。トヨタは「環境を重視する国では、将来的にHVが過半数になるのではないか」(内山田氏)と強気な見方を示す。
トヨタは現在、家庭用電源などから直接バッテリーに充電できるHVである「プラグインハイブリッド車」(PHV)1車種と合わせ、ハイブリッド技術を使用したHV20車種を80カ国で販売している。さらに、15年末までに新型HVを18車種投入する予定だ。
今でこそトヨタの顔となったHVだが、初代プリウスの発売当初は暗中模索だった。内山田氏は「無事に世の中に送り出せないかもしれないのではないかとも思った」と明かす。
しかし、心配は杞憂に終わる。「(充電が必要な電気自動車(EV)などのように)今の車の乗り方を変えなくても、買うだけで燃費がよくなる」(内山田氏)という手軽さが、ユーザーに受け入れられたのだ。1997年に発売し、10万台を目指した初代プリウスは12万台の販売を記録。03年に発売した2代目プリウスは119万台。09年投入の3代目プリウスは、累計160万台に達している。11年に投入した「アクア」も絶好調だ。
もっとも欧州を中心に環境技術としてディーゼルエンジンの普及が進んでおり、HVは“ガラパゴス自動車”などと揶揄されることもある。ただ、最近では欧州の主要な自動車メーカーでもハイブリッド車を投入する動きが加速している。
内山田氏は「他社もHVに取り組まないといけないと決めたのでは」と分析する。HVは高速走行など全体的な性能でディーゼルエンジン車に及んでいないものの、高速走行でのエンジン効率化も進み、HVもディーゼルエンジン車に劣らず普及すると見込む。
■新興国では高価格がネックか
一方、新興国では高価格がネックとなり、このままでは普及はおぼつかない。巨大市場の中国もその一つだ。内山田氏は「中国の環境問題の解決策の一つとして、HVを導入したい」と意気込む。コスト低減のため、トヨタは昨年、中国・常熟に作った研究開発拠点において、ハイブリッドユニットの現地生産化プロジェクトを進めている。現在、中国にはプリウスのボディパネルすら日本から持っていっている状態だが、現地調達が進めば価格を安く抑えるメドが立つ。また、「日本のように、(HV購入補助金などの)インセンティブ政策を充実させてほしい」と、政策支援への期待も寄せる。
HVに続く次世代エコカーとしては、EVやPHV、水素を充填して走る燃料電池車(FCV)が控えている。内山田氏は「バッテリーやモーターなどHVの要素技術はこれから出てくる次世代車にも使う重要なコア技術」と見ており、HV自体も「性能面でもコスト面でも、まだ進化する」と話す。
既存の燃料インフラを使えるHVが、今日のような状況になるのにも15年の歳月を要した。次世代エコカーが普及するとしても、当面はインフラの整備や品質・性能の向上などの問題から、普及には一定の時間がかかりそう。HVは当面、エコカーをリードする存在となる。ハイブリッド王者・トヨタの存在感はさらに増しそうだ。