トヨタが「世界一」から転落し、日本の自動車産業の「ヤバすぎる大崩壊」が始まる…!

世界の「EV化」の流れは決した。だがトヨタをはじめ日本勢は、現実を見つめ、遅れを取り戻そうとすらしていない。勢いに乗った新興中国企業に、日本の「屋台骨」が一気に叩き壊されてしまうのか。

「半導体不足」だけではない「日本車の販売不振」

日本のクルマの売れ行きが、’70年代後半と同じ水準まで落ち込んでいる―。そんな衝撃的なニュースが、年初から自動車業界に流れた。’22年の国内新車販売台数は、前年比5.6%減の420万台。前年割れとなるのは4年連続で、東日本大震災が発生して大幅減産となった’11年をも下回り、45年前の水準に戻ってしまった。

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一方で、躍進したのがインドだ。新車販売台数は前年比25.7%増の約473万台に達し、日本を追い越して中国、米国に続く世界3位に浮上。日本が長年守ってきた地位を奪う形となった。

日本車の販売不振には、半導体不足による減産が大きく影響している。市場ニーズは回復しているが、それに対応できなかったのだ。特に落ち込みが激しかったのがトヨタである。乗用車の販売台数では同社の減少幅が最大で、12%減の約125万台だった。

ただ、半導体不足は各国共通の事情ではあるものの、’22年の中国の新車販売は2%程度伸びた。GMも米国で新車販売を約3%増やし、トヨタを抜いて首位の座を奪い返した。言い訳が許される状況ではない。

日本勢の不振の背景には、何があるのか。少子高齢化、若者のクルマ離れ……トヨタをはじめ、国内メーカー関係者の多くは、そうした外的要因を口にする。

「EV」での出遅れ、中国からの「黒船」

しかし最大のネックが、ついに一般の消費者にも浸透し始め、ガソリンスタンドの廃業が目立つ地方などで本格的にニーズが生まれている電気自動車(EV)で、日本勢が総じて出遅れていることにあるのは、もはや明らかだろう。

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’22年は日本国内でもEVの販売が前年比2.7倍の約5万9000台となり、初めてシェア1%を超えた。最も売れたEVは日産自動車が発売した軽EV「サクラ」の約2万2000台だが、独ベンツや韓国の現代自動車などの輸入EVは、前年比107倍となる約1万4000台売れている。

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トヨタは’22年、初のEV「bZ4X」を発売したものの、わずか1ヵ月でリコールとなった。早くからEVを市場投入してきた日産を除いて、日本の自動車メーカーは大きく後れを取っている。

そしてうかうかしている間に、ついに中国から「黒船」がやって来てしまった。1月31日、深センに本社を置く自動車メーカー「BYD」が、日本でEV乗用車の販売を開始するのだ。

テスラを超えて、いま世界一勢いがある自動車会社―BYDをそう評する業界関係者は多い。’22年のテスラの販売台数は前年比40%増の約131万台だったのに対し、BYDは約2.8倍の91万台(EVのみ)と、伸び率でテスラを大きく上回った。

破竹の勢いが株式市場でも好感を持たれ、昨夏には株式時価総額で独フォルクスワーゲンを追い抜き、1位のテスラ、2位のトヨタに次ぐ世界3位に浮上した。

日産を上回った「ATTO3」のすごさ

BYDが日本で発売するEVはSUVの「ATTO3」。価格は税込み440万円で、1回の充電で走行可能な距離は485km(WTLCモード)と、日産の主力EV「リーフ」を上回る。

筆者は昨年12月、この「ATTO3」に試乗した。モーターで駆動するEVはガソリン車を上回る加速性能をもつが、あえて加速を抑え、「ガソリン車に近い乗り心地にすることで、これから乗り換える人にも違和感を与えないようにしている」と担当者は説明する。

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同社は日本法人の「BYDオートジャパン」を’22年7月に設立。国内でまず22店舗を設け、’25年までに100店舗に増やす計画だ。ホンダや日産、輸入車の販売を手掛けるVTホールディングス(本社・名古屋市)傘下の企業などが販売を担う。

日本法人社長には、三菱自動車出身で、フォルクスワーゲンジャパン販売の社長も務めた東福寺厚樹氏が就任した。氏は’90年代半ばに三菱の北米事業の再建に貢献した実績が評価され、’00年に三菱と独ダイムラーが資本提携した際の交渉にも関わった。

「中国製かどうか」ではなく「使い勝手とデザイン」

日本市場に参入するうえで、何を重視しているのか。東福寺氏はこう語る。

「『中国製にしてはすごい』と言っていただくことが、ひとまずの目標です。製造は中国の工場ですが、日本からエンジニアが出向いて品質をチェックしています。

また、私が専門としてきた販売の視点で言うと、かつてはエンジンの性能にわくわくしてクルマを買う顧客がたくさんいましたが、今は『ボンネットを開けたことすらない』という人も多いのが現実です。

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つまり、ユーザーの関心はメカニックに対する興味よりも、移動の快適性のほうに移っている。BYDはそこに気付き、強化しています。中国本国仕様車の車載端末には多数のアプリが入っていますが、日本仕様車の端末でも、使えるアプリをこれから増やしていきます」

「ATTO3」のインテリアは「スポーツジム」をイメージしてデザインされているという。全体に曲線が多く、日本車とは異なる印象だ。

「今は日本の若者も中国製かどうかなんて意識しませんから、使い勝手とデザインがよければ買ってくれるはずです」(東福寺氏)

「ATTO3」は中国だけでなくオーストラリア、タイなどで先行販売されており、30~40代のファミリー層を中心にすでに14万台が売れた。

「EVシフト」とは、動力源がエンジンからモーターに移行することだけを指すのではない。その本質はクルマの「スマホ化」、つまりクルマの使い勝手の良さがソフトウェアの優劣で決まるという点にある。テスラやBYDはその流れをとらえ、戦略を明確にしているが、一方で日本企業はその潮流に対応する動きが鈍いのが実情だ。

中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行ビジネスソリューション部の湯進主任研究員は「BYDのクルマはデジタル化が進んでおり、まさに『走るスマホ』。破壊的な競争力を持っている」と語る。

とまらない世界の「EVシフト」。新興中国企業「BYD」が勢いにのるなか、日本だけが取り残されていく。日本は、そして日本を代表する自動車メーカー「トヨタ」はどうなるのか…。後編記事『トヨタが中国企業に「敗北」する日がやってくる…日本の基幹産業を襲う「悲劇的な結末」』で引き続き紹介する。

「週刊現代」2023年1月28日号より

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