トヨタの「片づけ」はここまでやる

2015年3月期決算で、過去最高益をたたき出したトヨタ。その収益基盤を支えるひとつが「カイゼン」の取り組みですが、それは生産現場の話に限りません。職場環境をカイゼンすれば仕事はもっと楽になるはずです。

トヨタで数百人の部下を持っていた元課長クラスにより、トヨタの現場の働き方メソッドをまとめた1冊『トヨタ仕事の基本大全』(KADOKAWA)から、仕事に役立つトヨタ流のメソッドについて紹介します。

※1回目記事:過去最高益!トヨタが伝承する「仕事哲学」

※2回目記事:「恐るべし!トヨタがあぶり出す「7つのムダ」

前回は、7つのムダを中心に、仕事におけるカイゼンの視点をご紹介しました。今回は、職場環境のカイゼンとして、片づけのコツをお伝えします。

さて、まずはチェックリストをご覧ください。皆さんご自身のデスク周りを具体的にイメージしつつ、正直に答えてくださいね。

【自己チェックシート】
☑ 片づけの効果は、キレイになって気持ちがすっきりすることだと思う
☑ デスクのキャビネット奥に何が入っているか、即答できない
☑ デスクの上に、1カ月以上使ってない書類がある
☑ あまり使わなくても、「My文具」を持つのが好き
☑ 自分の部署のキャビネットで、必要書類を探し出すのに時間がかかってしまう

① 「片づけ」のステップは5つ  ※イラスト①(5Sの定義)

ここでは皆さんに親しみやすい「片づけ」という言葉を使っていますが、トヨタの製造現場で実際に使われている言葉は「5S」。これは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字をとったもので、職場環境を維持・向上するためのスローガンです。

今回は、その5Sの中でも大きな効果が見込める、「整理」「整頓」について取り上げます。

② 目的は7つのムダの排除

そもそも片づけは、何のためにやるのでしょうか?効率的に物が配置されてスッキリしたデスクと、書類や部品類が散乱しているデスク。この2つのデスクでは、皆さんが仕事をする際の気持ちや効率はどうなりそうですか?そして、それはなぜでしょうか?

――片づけをする目的、それは前回もご紹介した「7つのムダ」を無くすことです。

先ほどの事例で、考えてみましょう。例えば、動作のムダ。物が散乱したデスクだとスペースが不足して、必要な物を近くに置くことができません。必要な物を 取るのにも、手を伸ばしたり体を曲げたりとムリな姿勢になります。そもそも必要な書類を探す時間も、余計にかかるでしょう。

トヨタ時代に530人の部下を持っていたある元課長は、それだけの人を抱えていながら、デスクの上にあるのは電話1つ、キャビネットも3つだけでした。彼 は「本当に必要なものなら、キャビネットやPCの中にきちんと保管しているはず。机の上に乱雑に置かれている時点で、捨てても構わないものである可能性が 高い」と言います。

別の元課長はトヨタ時代に「必要な書類は10秒で取り出すことが暗黙のルールだった」と言います。皆さんは、必要な書類を、10秒以内で取り出すことができますか?

あるいは、在庫のムダやミス・手直しのムダ。不要な書類や必要以上の備品を保管することは、スペース確保のための保管料を払っていることになります。賃料 はオフィス一括で支払っているので、日頃1人ひとりの社員が意識することはないかもしれません。しかし、皆さんのデスク上の2割を不要なものが占めてお り、他の人も同様の割合だとすると……毎月いくらの賃料をムダな物を保管するために払っていることになりますか?

③ 製造現場とオフィスの違いは、工具とペンの違いだけ

製造現場ではこれまでも行われてきた5S。でも、これはオフィスでも通用するのか?あるいは、効果があるのか?恐らく読者の皆様の頭には、このような疑問があることでしょう。

製造現場とオフィス。仕事内容は大きく異なりますが、本質的な違いはありません。違いは、工具とペン、製品と書類の違い。ただそれだけです。5Sは改善の 基本であり、弊社でもオフィス系の現場でも実施します。ある自治体では、「住民の皆様へのサービスを向上する」ために、片づけに取り組んだ事例もありま す。

大切なのは、ゴールです。5Sは、物をキレイに並べた だけの「整列」と混同されることがありますが、本質は全く異なります。ゴールは、TPSの二本柱である「ジャスト・イン・タイム」に通じており、「必要な 物を、必要な時に、必要なだけ」取り出すための環境づくり。片づけは、仕事の効率をあげるためのビジネスツールなのです。

① 「いつか使う物」への対応が鍵

最初に「いる物」と「いらない物」の判断基準を作りましょう。

まず「いる物」とは、今皆さんが手掛けている仕事に関する書類や、毎日使う文具類など。これは当然ですが、保管します(保管方法は「整頓」の項目で説明し ます)。そして「いらない物」とは、壊れている文房具、明らかに古すぎる書類などで、即刻捨ててください。この2つはわかりやすいですね。

問題は「いつか使う物」。使う頻度が低かったり、タイミングが曖昧だったりする物で、捨てる判断がつかない物です。例えば、週に一度位の頻度で使用する文 具類。あるいは、精神面で執着があるという観点では、使う見込みはないけれど、自分の自信作の仕事の関連書類なども含まれるかもしれません。

この「いつか使う物」に対しては、「いつか」ではなく具体的な期限を設定します。かつ、極力短い期限で設定するのがコツです。例えば、「6カ月以内」にすると使う物も増えますが、「1カ月以内」であれば使う物も絞られてきます。

そして、期限内に使用しないものは、捨てます。最初から短い期間に設定するのに抵抗が大きいので、少しずつ短くしていくのもよいでしょう。また、使用頻度 は低いけれど、確実に定期的に使う物については、捨てるのではなく共有するのも効果的です。例えば、監査資料。個人が人数分保管しておく必要はないです が、部署内で1つ持っていれば十分です。

② “都合の悪いものは隠す”心理を忘れない

そして、整理を実施する際に忘れてはならないのが、「都合の悪いものは隠す」という人の心理です。つまり、目や手が届きづらい場所に、「いらない物」が隠されている可能性が高いのです。

例えば、キャビネットの奥。冒頭のチェックリストでも問いかけましたが、皆さんのキャビネットの奥には本当に必要な物が保管されていましたか?その物の存在を忘れていた、「いらない物」だったという方が多いのではないでしょうか。

キャビネットの奥以外にも、キャビネットの最上段・最下段、倉庫の一番奥、そして、カーテンや壁などの目隠しがされた場所など。整理の効果を最大化するためにも、これらの目が届きづらい場所は必ず、整理の対象にしてください。

① 原則は「使用頻度」×「動作経済」

「整理」で「いらない物」がなくなった段階で、いよいよ整頓に入ります。「整頓」で行うのは、保管ルールを決めて明示すること。

まず、保管ルールを決める原則は、「使用頻度」と「動作経済」(体の動き・姿勢のムリ・ムダを最小限に抑える考え方)です。つまり、よく使う物ほど、取り 出しやすい場所に保管します。オフィスでの動作経済上の一等地とは、手が届きやすい場所やよく目に付く場所など、具体的には机の上やキャビネットの手前な どをさします。

次に、保管ルールは、「どこに(定位置)」 「何を(定品)」「どれだけ(定量)」の三定(さんてい)を決めます。そして、決めたルールを守ってもらうために、使用者にとって使いやすいルール、守り やすいルールである必要があります。つまり、物を保管しやすい場所、シンプルで見えやすい明示内容にするのです。

② 無意識でも目に飛び込んでくる形でルールを明示

それではここからは、具体的な明示方法をご紹介します。ポイントは、意識的に見ようとしなくても、自然に目に飛び込んでくる状態にすること。保管場所に保管物の内容を明示するのは最もシンプルな手法ですが、以下のような工夫も有効です。

1つ目は、線を引くこと。保管場所の明示だけでなく、物を積み上げて保管する場合にはその上限を示すこともできます。トヨタでは正常と異常をわける「基準」が非常に重視されており、それを明示する手段として線は頻繁に活用されています。

例えば、製造現場では作業者が歩いてよい場所には線が引かれており、危険区域と安全区域が明示されています。あるいは、現場に掲示してあるグラフには基準となる位置に線が引かれており、現在の数値が正常か異常化を容易に判断できるようになっています。

2つ目は、姿置き。物の形を影のように保管場所に描くことを言います。その物の有無が一目で判断できることに加えて、元に戻す際にも間違いなく戻すことが できます。もし姿置きが難しいようなら、保管物の写真を添付する、あるいは、ビニールテープに保管物の名称を記載して貼っておくだけでも有効です。

3つ目は、マップ図です。少量多品種の物を保管する場合には、個々の保管場所に保管物の名称を書いたとしても、全体の中で保管場所を見つけるのは大変。そ のような少量多品種の物を保管している場合に、どこに何があるのかを一目で伝えるツールがマップ図です。オフィスであれば、書籍棚や書類キャビネット、あ るいは倉庫などに有効です。

以上で片づけのテーマは終わりです。

たかが片づけ、されど片づけ。皆さんも片づけを通じて仕事がはかどる職場環境を手に入れ、より効率的に仕事が進む下地づくりをしてみてください。

【本日のまとめ】
☑ 片づけの効果は、仕事の生産性をあげること
☑ 目に見えない場所には、「いらない物」が隠されていることが多い
☑ 「動作経済」の一等地には、「使用頻度」の高い物を置く
☑ 「使用頻度」の低いものは、捨てる、あるいは共有する
☑ 多種の物が保管されている場所は、マップ図で全体像を伝える

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