米調査会社オートデータが12月1日に発表する11月の米新車販売の台数に、これまでにない注目が集まっている。この指標は8月、9月、10月と3か月連続で前年割れしており、「北米クルマ市場はピークアウトした」「もはや、世界最大の自動車市場は崩壊寸前」との声が強まっているからだ。
もし、感謝祭後のクリスマス商戦を含む11月の数字が前年比で伸びを示すことができれば、このような見解を覆す根拠になるが、4か月連続で前年割れとなると、米新車市場の健康度と将来性に、大きな懸念が生まれることになる。
しかし、そもそもなぜ、米クルマ市場がもはや成長できないピークアウト状態だと言われるようになったのだろうか。
■日本メーカーまで苦境に
この問題は最近、米三大自動車メーカーの一つであるフォードの経営陣が、「米市場はピークアウトした」と公に認めたことで、大きな関心を呼ぶようになった。
そして11月初旬には、北米市場を頼みとするトヨタ自動車と日産自動車も米国での販売台数が前年割れしたことで、こうした見解が再確認されることになった。11月に発表されたトヨタの10月分米新車販売の前年割れは、市場予想の4.7%減を大幅に上回る8.7%の落ち込みだったため、市場にショックが走った。
トヨタの伊地知隆彦副社長は、北米市場について「やや弱含みの動向で注意深く見守る必要ある」と警戒心を隠さず、日産の西川廣人共同最高経営責任者(CEO)に至っては、「北米市場はこれ以上の成長はないし、少しずつピークアウトしている」と、あっさり認めた。さらに、富士重工業の吉永泰之社長も、「米市場の全需は、ピークアウトしたと思う」と語っている。
一連の発言を受け、米メディアは、「米メーカーだけでなく、(販売が比較的堅調だった)日本メーカーも認めた。ピークアウトは、本物だ」といった論調で伝えている。2008年の金融危機以降、政府の補助金などの効果もあり、米市場の新車販売は順調に伸びてきたのだが、ついに飽和状態に達した可能性がある。それだけではない。過去8年間に無理矢理、販売数値を上げてきたツケが回って来た兆候が見られる。
■自動車サブプライムローンの崩壊
米投資サイト「ゼロヘッジ」のコラムニスト、タイラー・ダーデン氏は、「9月末の季節調整済み年率換算(SAAR)値では、年1770万台のクルマが売れた計算になる。車の平均使用年数を15年と見積もると、運転可能年齢の米国人ひとり当たり、1台以上を所有していることになる。これは、持続可能な状態ではない」と分析した。
ダーデン氏はさらに、「過去6年のローン審査基準の劣化で、(本来はローンを組めない低所得者層向けの)新車販売は水増しされてきた。(いずれ返済できなくなる人たちに向けて)過剰な販売をした結果、(差し押さえられた)大量のクルマが中古車市場に一度に流入することになり、中古車相場を押し下げている。こうしたなか、差し押さえたクルマの価値が低く評価され、高利で低所得者層向け貸し出しを2010年から6年で124%も増やしてきた金融業者が損失を被っている」と説明した。
米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は10月26日付の分析記事で、「(在庫増加によって、)2016年の平均中古車価格は、前年に比べ4%下落するだろう」とする米中古車業界の専門家の声を伝えている。
米国における自動車ローンの残高は2015年、史上初めて1兆ドルを突破しており、低所得者層向けの無理な住宅販売が原因で起こった金融危機に似た状況が起きているのだ。クルマのローンの額は住宅価格ほど大きくないため、専門家は心配がないとする。しかし、クルマ市場の成長を支えてきた低所得者層向けの販売が不良債権の増加などでピークアウトした自動車メーカーへの影響は小さくない。
米ビッグスリーのゼネラル・モーターズによるサブプライムローンにおける2か月未満の返済不履行率は、すでに全体の8%に達しており、2か月以上の遅延は二桁台の成長を示している。金融業者だけでなく、メーカーそのものへの悪影響が出始めている。
こうした状況は、すでに数年前から予想されていた。2015年には米格付け機関のスタンダード&プアーズが、「自動車業界の競争は極限に達しており、その結果として価格競争、貸出基準の緩和、より大きな損失の埋め合わせが行われてきた」と指摘している。
■いつバブルが弾けるか
それでも、新車販売台数が、マイカーローンの順調な伸びに助けられて、前年を上回っている間は、まだ問題が見えにくかった。だが、販売台数が頭打ちか減少を始めると、隠されていた不都合な真実が明るみに出始める。
米国における自動車ローンの審査落ちは、現在わずか5%である。どんな信用のない人でも借りられるということだ。だが、返済不履行がこれ以上増えると、金融業者もメーカーも審査基準を強化するため、新車販売台数はさらに減少する。無理な販売で成績を見かけ上、よくしていたツケが回ってきたのだ。
新車販売が減れば、自動車メーカーや部品メーカー、それら企業の従業員、さらにはディーラーなど、広範囲に影響が及ぶ。米住宅サブプライムローンのバブル崩壊に比べると規模は小さいかもしれないが、金融危機後の経済回復を支えてきた自動車業界が沈むと、米経済が変調をきたす可能性も捨てきれない。
リーマンショックの後遺症から米経済が立ち上がれたのは、自動車やデジタルテレビの功績が大きいが、今度景気が悪くなった場合、いったいどの業界が回復を支えられるのか、代わりが見当たらない状況だ。自動車やテレビは市場にあふれている状態で、これ以上生産しても、人々は簡単に買ってくれない。
来年1月に発足するトランプ政権にとっても、米自動車業界のピークアウトは無視できない潜在的な問題だ。11月の新車販売は、果たして上がったのか、下がったのか。市場は固唾を飲んで見守っている。(在米ジャーナリスト岩田太郎)