旧民主党の「牙城」とされる愛知県で、全トヨタ労働組合連合会(全ト)の支援を受けてきた古本伸一郎前衆院議員(愛知11区)が衆院選不出馬を決めたことが、立憲民主党内に波紋を広げている。
全トが与党と関係強化に動く中、立民の党名を隠して全トとの連携維持を図る候補も出ている。
「自動車産業を守ることは国を守ることだ。古本さんの不出馬はショックだが、自分が自動車産業をしょって立つ」
24日、同県西尾市で開かれた決起集会で、立民候補はこう語り、支持を訴えた。演説の中で「立民」と言及したのは1度だけ。のぼり旗にも党名はない。全トに「党を表に出さない」と約束して支援を受けていることを意識したためとみられる。
陣営では、「古本氏の不出馬は、全トの組合員に『自民党に投票してよい』とのサインになる」との危機感が強まっている。
古本氏は全トに加盟するトヨタ労組出身。6期連続当選し、財務政務官などを歴任した。昨年9月の旧立民と旧国民民主党の合流には加わらなかったが、立民会派に所属していた。
一方、約35万人の組合員を抱える全トは、2012年に民主党が下野した後も、古本氏ら同党出身議員の支援を続けてきたが、今年1月に自公両党と連携する方針を打ち出した。自動車業界がカーボンニュートラルへの対応など変革を迫られる中、「政策実現のために与党とも連携すべきだ」との声が強まったためだ。
衆院解散日の14日、愛知県豊田市で行った記者会見で古本氏は不出馬を表明。同席したトヨタ労組の西野勝義執行委員長は「(各政党とは)是々非々で連携を模索していく」と述べた。
全トが与党との連携に動いた背景には、立民と共産党の共闘に対する拒否感もある。立民は共産と歩調を合わせて大企業に対する課税強化などを主張しており、全ト内には「立民はもはや敵だ」との反発も出ている。
巨大労組の方針転換に対し、党内からは「愛知11区だけの問題にとどまらない」(若手)と不安視する声があがっている。