トランプ再選で日本の製造業に何が起きる?懸念すべき「3つの変化」とは

トランプ氏が米大統領選で再選した場合、日本企業、特に製造業や商社、貿易や物流を担う業界にはどんな影響が出るのか。現場ではすでに、米国側の工場から中国へ早めの部材注文が殺到。その影響から、中国から米国への船舶が急増しており、日本へ寄港してくれなくなっているという。この詳細を含めて、3つのシナリオを予測し、解決の糸口を紹介しよう。(未来調達研究所 坂口孝則)

『ほらトラ』影響を関係者200人で激論!

「『もしトラ』が『ほぼトラ』になって、次に『確トラ』だね。11月には『ほらトラ』(ほらね、トランプだったでしょ)と続くのかも」。数週間前、そんな冗談を企業人と交わしていた。

 その後、全く予期せぬことが立て続けに起きた。1つは、トランプ氏が狙撃されたこと。奇跡的に弾が外れ、血を流しながらも拳を振り上げた直後の報道では、トランプ氏が危機を乗り越えたリーダー像のように映ることで「大統領選でかなり優位になった」とコメントされていた。

 しかし、今度はバイデン大統領がレースから離脱。現副大統領であるカマラ・ハリス氏が後継候補となった。さらに、一部世論調査では支持率でトランプ氏を抜いたと報じられている。筆者の記憶だと、かつてハリス氏は「不人気」「期待外れ」などと報道されていたのに。

 結局はまだ勝負の行方は分からない、ということだろう。共和党支持者は何が起きても共和党を支持。民主党支持者は何が起きても民主党を支持。無党派層を大胆に取り込める決定打が生じれば、どちらかの陣営に有利になりそうだ。

 気になるのは日本企業への影響である。筆者はサプライチェーンや調達分野のコンサルティングに従業しており、その分野の専門家が約200人集まったLINEグループを有している。トランプ“新”大統領の可能性や影響について議論する中で、現場ではすでに、米国側の工場から中国へ早めの部材注文が殺到。その影響から、中国から米国への船舶が急増しており、日本へ寄港してくれなくなっているという。この詳細を含めて、3つのシナリオを予測し、解決の糸口を紹介しよう。

 200人の議論で最も多い意見は、「誰が大統領になっても、対応していくしかない」というもの。ただ、企業人としては安定を望むから、将来を読みやすい民主党政権の方が既存の延長線上となりそうで好ましくはある。一方、トランプ氏が大統領になった場合の予想シナリオは次の通りだ。

【シナリオ1:関税強化】

 中国から米国への関税が強化される。トランプ氏がすでに、そう示唆しているからだ。米国の総輸入のうち15%を占める中国からの商品に、60%の関税を課すとすれば、外国資本であっても中国工場から米国に供給するケースに支障が生じるはずだ。

 米国が中国をいじめているようにも見えるが、現実的には、関税分は米国民が負担する。だから米国民からしてみれば高い買い物になるわけで、代替生産地の検討や米国回帰も選択肢になるだろう。

 なお、すでに起きていることだが、関税の上昇を恐れて、米国側の工場から中国へ早めの部材注文が殺到している。高くなる前に買ってしまえ、というわけだ。その影響から、中国から米国への船舶が急増しており、日本へ寄港してくれなくなっている。

 また、トランプ氏は欧州や日本からの商品についても関税率引き上げを示唆している。関税率の上昇が長期間に続くようなら、関係する企業は第三国からの供給プランを練らねばならないだろう。

【シナリオ2:半導体規制】

 半導体関連の製品に関して、米国が友好国に呼びかけ、現状よりも広範囲の分野において中国への販売を禁止するかもしれない。日本企業も例外ではなく、販売する商品のいくつかが売れなくなることにより、収益に陰りが出るかもしれない。

 中国は、レアアースをはじめ多くの資源を有する。中国がこれら資源を“人質”にすると、日本は原材料調達に支障が出るだろう。現時点では目立った混乱は起きていない。が、中国とて一方的にやられるわけではなかろう。

 さらに、サプライチェーン関係者が懸念するのは、「その先」だ。現在、中国ではファーウェイが独自ロジック半導体を設計し始めているという。先端の半導体を諸外国から購入できなくなったので、彼らからすれば当然の道だったのだろう。その結果、中国の半導体ファウンドリー企業がオランダのASMLの露光装置を改造するなどして、なんと7ナノの半導体までは生産できるようになった可能性があるそうだ。なお、日本ではロジック半導体は40ナノ程度しか生産できない。

 中国が半導体領域で孤立に追い込まれれば追い込まれるほど、彼らは多額の資金を費やして、最先端ロジック半導体を作り上げてしまうかもしれない。そうなると中国はもう、日米やドイツ、オランダなどから最先端技術を習得しなくてもいい、となる。すると、中国にとって台湾の必要性が低下する。そして、国際社会における発言力を強めるだろう。こうなると、日本の企業人は販売と調達の観点からますます中国を無視できなくなる。

【シナリオ3:環境ビジネスの落日】

 トランプ氏は脱炭素ビジネスを「green scam」(グリーン詐欺)と言い放っている。どこまで本気かは別として、かつて演説で一部の洋上風力発電を停止させるとも発言した。何でも、鳥を殺す怪物に見えるそうだ。

 もし、風力発電所の認可を取り消したり、行政が使う電力に「反風力」のポリシーを導入したりすると、関連業者にとって大打撃だろう。その影響は米国内にとどまらない。

 国際的に、「GX」なる単語が流行している。Green Transformationのことで、GHG=温室効果ガスを発生させる(であろうと思われる)化石燃料の発電手法をやめて、太陽光発電や風力発電などにシフトする動きだ。周知の通り、脱炭素や二酸化炭素を吸収する技術やプロジェクトに、世界で相当な額が投じられている。

 なお、筆者は二酸化炭素削減がばかげたものとは思わないし、企業姿勢としては推進したほうが良いのではないか、という立場だ。ただ、2050年のカーボンニュートラルを手放しで信じるほどナイーブでもない。世界で多くの人が、環境問題のある種のうさん臭さを嫌悪しているだろう。今回はイデオロギーの問題ではなく、実利的な問題として述べる。

 つまりトランプ氏が再選すれば、環境や脱炭素に関連する投資は減少し、代わりに旧来のエネルギーが見直される可能性がある。再生エネルギー投資が落ち着く見込みが立ち次第、これも企業行動を左右させるだろう。

 11月に「ほらトラ」と言っているかは分からない。ただ、優秀な企業人なら早め早めの行動が勝敗を分けると知っているだろう。さまざまな可能性を考えて事前に準備することは、決して悪いことではないはずだ。

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