トランプ氏「為替発言」の波紋 1ドル=110~120円まで円高に 日本は今のうちに外貨準備を減らし「円安差益確保」を

ドナルド・トランプ前米大統領が、円安や人民元安を警戒する発言をして話題となった。

トランプ氏は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」だ。重要・基幹産業は国内で完結し整備しようとしている。そのためにはドル高は不都合だ。今のドルが均衡レートより高いことも知っているようだ。

要するに、本コラムで何度も指摘してきた「近隣窮乏化」、つまりドル高は米国経済を弱らせるが、他国を強くすることを理解しているようだ。どこかの政治家や経済メディアのように「円高が日本経済に良く、円安が悪い」と思い込んでいるのと真逆である。トランプ氏からみれば、そうした人々は「日本ファースト」でないのでくみしやすいだろう。日本にとって国益を害する人たちだともいえる。

トランプ氏はもともと不動産業出身で、基本的には金融緩和を好むので、ドル安は居心地が悪くないはずだ。

実はトランプ氏は、前回の大統領当時から、ドル安を指向していた。しばしばドル安に口先で言及したが、実際には介入はなかった。

米国では、実務的に米財務省が米連邦準備制度理事会(FRB)と協議の上、為替介入を決定し、ニューヨーク地区連銀が介入事務を行う。介入金額は、米財務省とFRBが折半し、米財務省は外国為替安定基金から、FRBは自身のバランスシート(貸借対照表)から、それぞれ原資を拠出する。なお、日本では介入主体は財務省で、資金は財務省の外国為替資金特別会計(外為特会)から拠出されている。

為替介入の効果については、一時的であり、継続しないので、欧米では口先で言うことはあっても実際に介入が行われることはまずない。この点、日本の外貨準備は国内総生産(GDP)比で「3割弱」と先進国の「数%」より突出して高く、介入への批判が常にある。

なお、今年2月にブラジルで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、これまでのG20声明の為替に関するコミットメントを再確認した。「通貨の競争的切り下げを回避し、競争力のために為替レートを目標としない」としている。

米国の金利はFRBの所管で、為替は2国間の金融政策の差で決まる。FRB議長は大統領が上院の助言と同意に基づいて任命する。FRBが独立しているといっても、事実上、政府の子会社であるので、政府の方針の下で金融政策をする。それに加えて、大統領の任命権があるので、金利も為替も長い目でみれば、トランプ氏の意向の通りになるだろう。

要するに、インフレ目標の範囲内で低金利、円高・ドル安になるだろう。円ドル相場は、為替が両通貨の交換比率であることから、その理論値は両通貨の比になるが、現状の理論値は1ドル=110~120円だ。そのあたりまで、円高になる可能性がある。

その水準になるまで、日本としては円安メリットを享受し、介入疑惑をなくすためにはできる限り外貨準備を減らして、円安差益を確保するほうがいい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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