お金持ちがさらにお金を持つと貧しい人は救われる?
トリクルダウンという経済理論をご存知ですか? 昨年の新語・流行語大賞の候補にノミネートされ、世間から注目を集めたのは記憶に新しいことだと思います。
そもそもトリクルダウン(trikle down)は、「徐々にあふれ落ちる」や「浸透する」という意味があり、経済活動を活性化するためには「裕福な者をさらに裕福にすることで、その富が貧困者まで徐々にあふれ落ちていく(浸透する)」というものです。
お金が有り余ると贅沢をしたり、無駄づかいをはじめ、どんどん消費を拡大させていきます。経済活動の一環として、お金を使うことによってお金の回りが良 くなり、景気が回復。そのお陰で企業の成績が上向き、従業員の給料が大幅にアップされることで更に消費が拡大。それによって、社会全体に活気があふれ、貧 困層まで恩恵を受けることになるということです。
ただし、この考え方には裏づけがなく、お金持ちの既得権益を守るための経済理論だともいわれています。そもそも日本では「金持ち金使わず」といわれ、 「金持ちほど無駄遣いをせず、ケチである」ということわざがあるくらいです。しかし、アベノミクスでは、お金持ちや大企業を優遇する税制改正や規制緩和を 行うことで景気回復の効果を期待しているのはいうまでもありません。
実際、身近な家計にもトリクルダウンの影響が忍び寄っています。
平成27年の個人に対する税制改正のなかでも、「住宅取得資金の贈与の非課税制度の延長」「結婚・子育て資金の贈与税非課税の創設」「教育資金の贈与税非課税の延長」はお金持ちに対する優遇措置であり、世代間のお金の移動による景気回復を目指しています。
この3つの制度の特徴は、親や祖父母から子どもや孫に「住宅取得資金」「結婚・子育て資金」「教育資金」を数千万円単位で贈与されても税金が課税されないというものです。
例えば、新たに創設された「結婚・子育て資金贈与税非課税」を検証すると、この制度は、平成27年4月~平成31年3月までに親や祖父母から、子どもや 孫(20歳以上50歳未満)へ、結婚や子育て資金に充てるために金融機関に信託した場合は、1000万円(うち結婚資金は300万円)まで非課税となるも のです。
孫のために結婚や子育ての資金を贈与する祖父母は、非課税で財産を生前贈与できるため、相続税の節税につなげることができます。本来、孫または子どもが これらの資金をコツコツ貯蓄して準備しなくてはいけないところ、長期にわたる景気の低迷で収入が激減し、預金金利も最低の水準のため貯蓄することが難しい 状況です。そこでお金持ち世代である祖父母に資金の提供を受けることで孫や子どもはそのための資金の準備をすることなく、消費に費やすことが可能となりま す。
住宅取得資金や教育資金の贈与の非課税も同様に高齢者世代のお金持ちを優遇し、次世代のために財産を贈与することで、消費意欲を拡大し、景気を回復させることができれば最終的には貧困層までも景気の恩恵が受けることができるということです。
安倍首相はトリクルダウンについて「我々が行っている政策とは違う」と強調しましたが、アベノミクスはお金をあるところからないところへ流すトリクルダ ウンの特徴を活用した政策といえます。重要なことは、一部のお金持ちや大企業だけが優遇されるのではなく、景気回復によって国民全体が潤い、収入や財産の 格差がなくなるように舵をとれるかが大きな課題でしょう。
景気回復の鍵を握るお金持ちは果たして、お金を使うことができるのでしょうか?
(文責 いちのせかつみ)
■いちのせかつみ ファイナンシャル・プランナー、生活経済ジャーナリスト。平成6年にCFP(R)資格を取得。家計からみた人生設計の考え方に関しては 第一人者。レギュラー・コメンテーターとして、毎日放送、朝日放送などのテレビやラジオに出演する一方、講演会やセミナー、執筆活動など多方面で活躍中。