電子部品製造のトーキン(宮城県白石市)は4日、老朽化が進む仙台事業所(仙台市)の操業を2024年2月末で終了すると発表した。本社のある白石事業所に機能を移転集約し、跡地は大和ハウス工業(大阪市)に売却する。仙台事業所はトーキンにとって「創業の地」で、今回の決定により仙台での企業史に終止符が打たれる。
同社によると、太白区郡山6丁目にある仙台事業所は1938年4月に設立。6万2626平方メートルの敷地に現存する工場21棟(計3万6148平方メートル)は、大半が築50年以上と老朽化が進む。安全の確保や将来的な拡張を考え、移転を決断した。
現在、仙台事業所では形状記憶合金の「メモアロイ」や、東北大青葉山キャンパス(仙台市青葉区)で24年度に運用開始する次世代型放射光施設の「心臓部」となる電磁石を生産。研究開発機能もある。
操業終了に伴い、ほとんどの生産は白石事業所に移管するが、一部は中国・アモイに移る。仙台事業所に勤務する従業員約220人は、白石事業所で雇用を継続する予定。白石事業所に今年8月ごろから新工場2棟を整備し、23年夏ごろの完成を目指す。
大和ハウスはこれまでも仙台事業所から約2万4200平方メートルを買い取り、18年に鉄筋3階の物流拠点を開設。複数の企業に貸し出すなど取引実績がある。新たに買い取る土地も同様の活用法を想定しているという。購入金額は非公表。
トーキンの前身となる東北金属工業は、東北帝大(現東北大)の研究成果を事業化するため38年に創業。02年まで本社機能を置き、現在も登記上の本店として登録されている。
伝統ある工場、地元惜しむ
「伝統ある事業所が消えてしまうのは寂しい」。電子部品製造のトーキン(白石市)が仙台市太白区の仙台事業所を2024年2月、白石事業所に移転、集約すると発表した4日、元役員や仙台事業所がある太白区郡山の住民から惜しむ声が上がった。
同社は1938年創業。当初は通信機器で使われる金属材料を研究開発し、80年代以降は電子部品の開発に移って海外展開した。
65年に入社し、取締役仙台事業所長や子会社の社長を務めた田中秀之さん(79)=仙台市青葉区=は「昭和40~50年代、納期が迫った年度末には社員が事業所に泊まり、不眠不休で頑張った」と往時を懐かしむ。後輩の社員には「社会に役立つ金属材料の重要性は不変。白石事業所で頑張ってほしい」とエールを送る。
同社で役員を務めた後、東北大産学連携先端材料研究開発センターに転身した吉田栄吉(しげよし)副センター長(65)は「移転は寂しいが、周辺に住宅が迫り、ものづくりに適さなくなった側面もあるのだろうから、やむを得ない」とみる。
仙台事業所の近くで生まれ、地元の諏訪町内会で会長を務める相沢義男さん(81)は間近でトーキンの盛衰を見守ってきた。「テレホンカードなど最先端の技術を製品化し、住民としても誇らしかった。近所には従業員や家族が住み、交流が盛んだった。この地で発展してほしかった」と残念がった。
一方、集約先となる白石市の高橋雄一都市創造課長は「働く人や場所が増え、人口増につながるならばうれしい。地元工業団地の整備にも弾みがつく」と歓迎した。