ドコモのLTE vs UQ WiMAX――勝ち残るのは?

 NTTドコモは11月8日、2010年末(正確には12月24日)からサービスが始まるLTE(Long Term Evolution)サービス「Xi(クロッシィ、と読む)」について、サービスの詳細を発表した。KDDIが進めているUQ Wi-MAXとの高速モバイルブロードバンド戦争もいよいよ本格的なステージに突入する。
 最も気になるのは、やはり料金である。あまりに高いと使う気にはならないからだ。ドコモの発表によると料金体系は「Xiデータプランにねん」と「Xiデータプラン」の2種類があるようだ。
 Xiデータプランにねんは、従来のデータサービスと同様、2年契約の縛りがある。料金は下限が月額1000円、基本データ量となる3メガバイトを超えると、1キロバイトごとに0.315円が加算され、20メガバイト以上5ギガバイト未満の範囲なら6510円になるという、2段階定額制だ。
 ただし、従来のサービスの場合、どんなに利用しても月額6510円という「天井」が定められていたのに対し、新サービスでは5ギガバイトを超えた場合、 2ギガバイトごとに2625円が加算されるそうだ。これは、FOMAユーザーの99%は月当たり5ギガバイト以内のデータ通信量で済んでいるという実態に即し、「利用の公平性」という観点から課金に踏み切るという。
 もう1つのXiデータプランは、データプランにねんと違い、2年契約という制限はない。料金は月額の下限が2470円、上限は5ギガバイトで7980円。こちらも、5ギガバイトを超えた場合、2ギガバイトごとに2625円が加算される。
 知らないうちにダウンロードの制限を越え、大金を請求されないよう、ユーザーの希望に応じて、5ギガバイトを超えた場合の通信を停止させたり、利用したデータ量をメールで知らせたりするサービスも行うそうだ。
 一方、KDDI系のUQコミュニケーションズ(以下、UQ)だが、UQ Flatには3種類の料金体系がある。しかし、1日ごとの課金とか、すぐに天井に達してしまう従量課金は現実的ではないので、本稿では定額制の料金体系のみに言及する。その場合、月額 4480円 で、使い放題だ。UQはさらに、「プロトコル規制なし」「通信量制限なし」「帯域規制は一切しない」という。その上、契約年数の縛りもない。両者を比較した場合、料金ではUQ側に利がありそうだ。
●スピードはどうか?
 Xiのサービス帯域は現在5Mhzで、将来的には37.5Mbpsを予定していると、ドコモは発表した。これが10Mhz幅を使用すると75Mbpsに達するという。対してUQが公表している数値は、下り最大40Mbps(ベストエフォート)となっている。もちろん、基地局に設置されたアンテナや、信号を処理する機器などの性能にもよるが、信号の統合と分離では、ながらく通信の世界で育まれてきたLTEに一分の利がありそうだ。特に端末が移動している場合、基地局間のハンドオーバーでは、WiMAXの性能は劣るのではないか。この問題を、UQは今後どのように解決していくのか、注視したい。
 ドコモの発表で、おそらくWiMAXを意識した発言だなと感じたのはこの点だ。おそらく、現状ではWiMAXが10Mbps程度しか速度が出ていないことをふまえての発言だろう。とはいえ、現状ではLTEのサービスが開始されておらず、何とでも言える。大事なのは、サービスインした後だ。サービス開始後、ユーザー数が想定以上に増えた場合、イーモバイルの回線同様、帯域制限をかけざるを得なくなるのではと、僕は見ている。
●サービスエリアを確認する
 Xiのサービス対象エリアは、東・名・阪の一部地域に限られている(今のところ、東京の主要な山の手線内全域、全国主要都市全域、主要な観光地域などに限られるようだ)。だが「2011年度に全国県庁所在地級都市、2012年度には全国主要都市に広げ、2014年度には3万5000局、人口カバー率で 70%超を目指したい」とドコモは明らかにした。
 これに対し、WiMAXは事業開始以来およそ3年半。WiMAX搭載PCやネットブックが登場し、一応の市民権を得た段階だが、サービスエリアに関しては心もとない。2010年8月の同社の発表では、基地局設置数が1万局で、人口カバー率は90%を突破したそうだが、ちょっと僕には“腑に落ちない”ことがある。
 今回の発表で、口頭では「主要な盛り場やターミナル、オフィス街、交通の要衝を中心にカバーする」と言いながら、文書での発表では、人口カバー率70%と発表しており、明らかに齟齬があるのだ。
 僕の私見だが、おそらく最初は、1000から2000程度の基地局数でスタートするのではないかと考えている。もちろん、W-CDMA回線と互換性はあるだろうから、70%という数字は、そちらも加味したものではないか。
 これを機に、両社とも基地局の増強競争に入るとみられる。それにより、大都市部に居住する人々は、来年早々にでもモバイルブロードバンドの恩恵に浴するようになるだろう。
●端末を見てみる
 当面、ドコモのLTE端末として提供されるのは、LG電子製のUSB接続タイプ「L-02C」に限られる。富士通製のExpressCard型「F- 06C」は、2011年春の発売予定だ。また、ドコモはモバイルルータ型の端末も、2011年早々に投入する意向も表明した(おそらくバッファロー製、あるいはNEC製ではないか)。
 これに対しUQは、上述したようにPC内蔵のモデルまで出ていて、一歩リードしている。さらにUQは、CEATECでWiMAX2の展示を行ったが、おそらく2011年から2012年にはサービス開始に踏み切るだろう。世界では出遅れ感のあるWiMAXだが、インテルが主導しているだけに、端末は豊富だ。問題は世界で使用する周波数が統一されていない点で、この課題が解決し、そして技術的に電波干渉も解決すると、普及が加速されるに違いない。
 帯域が大きくなると、1台のPCで独占するのはもったいないという意識が生まれる。つまりモバイルルータが、今後のデータ通信端末としては主流になるとみられる。さらに、電話機能にデータ通信機能を付加したモデルも出現するに違いない。WiMAX-WiFi接続ルータは既に「WiMAX Speed Wi-Fi」が投入されている。NECアクセステクニカ製で、モデル名称は「AtermWM3300R」だ(NECアクセステクニカでは、今年の iExpoで早くも新型のWM3500を発表した)。
 対してLTE-WiFiは、まだ具体的な動きが見えない。おそらくWCDMA-WiFiルータを発表したバッファローあたりが新製品を投入するのだろうが、明確ではない。結果、今時点ではWiMAXの方が、端末の選択肢という意味では優れていると言わざるを得ない。
●光ファイバーvsモバイルブロードバンド
 これだけ帯域が広がると、ADSLはもちろん、光ファイバーにも見劣りしないところまで来たように、誰もが考えてしまう。自宅で使っているルータを、そのまま持ち出せるととしたら、確かにワクワクする。今回の発表で、少なくともADSLを使っているユーザーは、モバイルブロードバンドへの切り替えを検討してもいいかもしれない。しかし、光ファイバーからの移行ということになるとちょっと考えものだ。
 フレッツ光のマンションタイプなら、実効速度はおよそ30~10Mbps程度だろう。おそらく、アクセスの少ない基地局に接続できれば、代替可能というレベルかもしれない。しかし、フレッツテレビなど「トリプルプレイ」サービスを利用している家庭では、移行などは不可能だ。またフレッツにも増速計画があり、遠くない時期に200Mbpsへ移行するようである。光ファイバーの場合、両端の機材を取り替えるだけで、現状でも40Gbpsまで帯域を上げることが可能だ。そのような芸当は、無線にはできない。
 また、盛り場やイベントの開催などで、多数の端末からのアクセスが、同じ基地局に殺到した場合、無線の本質的な課題から、基地局自体が端末との帯域を絞る。LTEを契機に、光ファイバーをやめてモバイルブロードバンドに切り替えようしている人は、もう少し様子を見てからの方がよさそうだ。
●ウィルコムと同じ運命をたどるのか?
 ソフトバンクが携帯電話ビジネスに乗り出して、最も大きな影響を受けたのがウィルコムだった。“家族割り”といった、特定の宛先への通話が「タダ」になるというソフトバンクモバイルのビジネスモデルが、音声フラットレートを採用してきたウィルコムのビジネスを直撃したからだ。その結果、純国産技術である PHSサービスの“最後の砦”だったウィルコムは、経営破綻に追い込まれた。そして今後、ドコモとUQがモバイルブロードバンド分野で激しく競争した場合、大きな影響を受ける可能性があるのはイーモバイルとソフトバンクモバイルであろう。
 ソフトバンクモバイルはiPhone、イーモバイルはソフトバンクモバイルと同様、iPod touchとモバイルルータの“抱き合せ販売”が奏功している。つまり、両社ともモバイルデータ通信で業績を伸ばしてきたが、今後は“高速化”という荒波が、ドコモとUQによりもたらされるだろう。果たしてこれに耐えられるのだろうか。両社の動向が注目される。

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