「やっぱり魔境だよな」――。ドンキホーテホールディングスの創業者である安田隆夫氏は、最近よく社内でそう口にするという。“魔境”とは、天井近くまで商品を積み上げた陳列が特徴的な同社の売り場を言い表したもの。特異な店舗づくりで独自の立ち位置を確立してきたドンキが今、“再生屋”として存在感を増している。
ドンキが8月上旬に発表した2018年6月期決算は、売上高9415億円(前期比13.6%増)、営業利益515億円(同11.7%増)と29期連続で増収増益を達成した。業績を牽引したのは食品や化粧品、医薬品などだ。特に訪日観光客のリピーターが増加傾向にあり、免税売り上げは前期比56%増の568億円と絶好調だった。
■ドンキ流の店作りを取り入れる
「当期は新たな事業に挑戦し、非常にエポックメイキングな1年だった」。大原孝治社長は決算説明会で感慨深げに振り返った。新たな事業とは、まさしく今ドンキが心血を注いでいるユニー・ファミリーマートホールディングスとの取り組みを指す。
ドンキは昨年8月、ユニー・ファミマと業務提携を結び、11月には同社傘下のユニーに40%出資した。それからわずか3カ月後の今年2~3月、ユニーが展開する総合スーパー(GMS)「アピタ」や「ピアゴ」のうち、売り上げが不振だった6店舗を一気に業態転換。「MEGAドン・キホーテUNY」としてリニューアルオープンさせた。
ダブルネーム店舗は、家電や化粧品など食品以外の品ぞろえを大幅に拡充。売り場には低価格を強調したドンキ流のPOP(店内掲示)を取り入れ、一部の生鮮食品以外はドンキの仕入れルートを活用した。若い世代にも顧客層を広げ、リニューアルオープン後の売り上げは1.9倍に拡大した。
さらに6月には、都内のファミリーマート3店舗で実験的に共同運営を開始。陳列棚を高くするなどドンキのノウハウを生かして駄菓子や酒類を充実させ、取扱商品を1.5~1.7倍に増やした。足元の売り上げは従来と比べ、1.25倍のペースが続いているという。
ウォルマートからの売却が取りざたされる西友についても、大原社長自身「興味はある」と断言するほど、GMSなどの事業再生に掛けるドンキの鼻息は荒い。「GMSは右肩下がり、コンビニも頭打ちの状況なのは誰の目にも明らか。これらのソリューションの決め手となる存在になれば、国内流通企業ナンバーワンとしての必要条件の1つを備えられる」(大原社長)。
■地域需要を見極めた個店主義を徹底
2007年には破綻したGMS・長崎屋を買収し、経営を建て直した実績を持つドンキ。既存業態を再生するプレーヤーとして頭角を現した背景には、他社と一線を画すビジネスモデルの強さがある。
同社の特徴の1つが、地域の需要を見極めた個店主義の徹底だ。仕入れや価格設定は本部ではなく、各店舗の社員主導で行われる。近隣店の動向を徹底的に調べ上げ、最適な価格や商品構成を現場で判断する。社員の給与は評価給のウエートが高く、担当する商品群の売上高や粗利益、在庫回転率が如実に反映される。
食品やPB(プライベートブランド)に偏重しない商品構成で、売り場の“ワクワク感”を煽るのもGMSにはない手法だ。長崎屋買収後から生鮮食品を強化してはいるものの、玩具や雑貨、家電を多品種取りそろえ、売り上げの約7割が非食品。PB「情熱価格」の売り上げ構成比は約1割にとどまり、あくまで「PB強化ではなく、その時々で売れそうな仕入れ品を多数そろえて“編集”することを重視」(同社幹部)する方針で、成長を続けてきた。
5年で100店舗規模を見込むユニーとの共同店舗は、2019年に20店増やす予定だ。共同店舗の出店は、ドンキにとってもメリットが大きい。ユニーが100%出資するUDリテールが運営主体となるため、ドンキは直接的なキャッシュアウトをせずに店舗を拡大できる。主な出店先であるGMSやパチンコの居抜き物件を探す手間も省くことができるうえ、ユニーが得意とする生鮮食品の販売にかかわるノウハウも吸収できる。
■足並みをそろえづらい
だが、資本提携後わずか3カ月で6店舗を出店した当初の勢いは、やや失速しているようにも映る。時間がかかっている裏には、ドンキとユニーの社風の違いがあるようだ。実際、大原社長は決算説明会の場で「われわれは変化対応を是とするが、彼ら(ユニー)は変わらないことを是としている」と語った。UDリテールはドンキとユニー双方の出向社員で構成されているため、社風やスピード感の違いがあれば事業はなかなか前進しない。
長崎屋は株式の大半を取得して連結子会社化したのに対し、ユニーは40%の出資にとどまる。決算期もドンキが6月期決算でユニーは2月期決算と異なり、予算編成を進めるうえで足並みをそろえづらい。ドンキは深夜営業の店舗も多く、共同店舗でも営業時間を延ばす場合はユニーの労働組合などへの説明が必要となる。
「ここまでの(共同店舗の売り上げ拡大の)結果で相当な説得力が生まれている。だんだんと事業を推進することに関して向こうも反対意見を言えなくなってきた」。大原社長はそう強調し、今後も積極出店に向けてユニーとの話し合いを続ける考えを示した。
ただ、ユニー側には東海の名門企業としてのプライドもあり、その社風を一朝一夕に変えることは容易ではない。ドンキ流の改革を一段と推進していくうえでも、出資比率を引き上げる可能性はゼロではなさそうだ。