ナノテラス稼働率99・5% 運用開始から5ヵ月滑り出し順調 運営主体手応え

東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)に官民が整備した次世代放射光施設「ナノテラス」は、4月1日の運用開始から間もなく5カ月となる。集計がまとまった6月末までの3カ月間の稼働率は99・5%に達し、利用実績を着実に積み重ねている。運営主体の担当者も「非常に上出来の数字」と順調な滑り出しに手応えを感じている。

 ナノテラスは、光の速さ近くまで加速した電子を電磁力で曲げた際に発生する高輝度のエックス線(放射光)を使い、物質の構造をナノ(10億分の1)レベルで解析できる。

 放射光を取り出す装置のビームラインは10本あり、うち7本が産業用で、出資したコアリション(有志連合)のメンバーが利用する権利を持つ。残り3本は大学などの先端研究に使う。

 国側の運営主体、量子科学技術研究開発機構(量研、千葉市)のナノテラスセンターによると、4~6月の3カ月間で産業用ビームラインには計1038・5時間の実験枠を設けた。うちコアリションメンバーや研究機関が実際に利用したのは1033時間だった。

 機器のトラブルで放射光が提供できなかった時間は5・5時間にとどまった。

 高橋正光センター長は「放射光を安定的に供給できる体制が整った。実験するユーザーの安心感や信頼感にもつながっている」と語った。

 ナノテラスは量研のほか、地元の光科学イノベーションセンター(仙台市)と宮城県、仙台市、東北大、東北経済連合会の5者が整備し、運営にも携わる。8月には小口資金を募って中堅・中小企業の利用を促す「ものづくりフレンドリーバンク(MFB)」の会員企業による利用も始まった。

[たかはし・まさみつ]東大工学部卒、同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。理化学研究所を経て日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)。大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県)で研究に従事する。2019年に量子科学技術研究開発機構・次世代放射光施設整備開発センター・ビームライングループリーダー就任。24年4月から現職。55歳。青森市出身。

実験の質向上、研究に反映 高橋正光ナノテラスセンター長に聞く

 東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)の次世代放射光施設「ナノテラス」の国側の運営主体、量子科学技術研究開発機構(量研、千葉市)の高橋正光ナノテラスセンター長が、河北新報のインタビューに応じた。運用開始から間もなく5カ月となる「巨大な顕微鏡」のここまでの成果や強み、今後の見通しなどを聞いた。
(経済部・樋渡慎弥)

 -ナノテラスの本格運用が始まり、5カ月になる。

 「実験の成果を論文にまとめるのに1年ぐらいはかかるが、ナノテラスは素晴らしいことに、運用開始後1カ月ほどで論文が学術誌に掲載された。質の高い放射光を使い、きれいなデータを取ることができた結果だ。電球のような大きな光源ではなく、レーザーのように小さく絞られた明るい光が実験の質を上げた。大型放射光施設のスプリング8(兵庫県)と比べ、ナノテラスは2倍程度の細かさで物質を分析できた」

 -ナノテラスの強みは。

 「『見る』ということは人類の根源的な欲求。ナノテラスは見えないものを見えるようにする手段として放射光を使う。化学反応の状態や、物質の性質を決める電子の振る舞いといったことを測定する手法(軟エックス線)に強みがある」

 -量研とともに、地元の官民5者も整備や運営に携わっている。

 「整備に当たり民間から出資金を集めてもらったが、並大抵の努力ではなかったはずだ。一番困難な所を最初にしっかりやってもらったことが、プロジェクトの成功につながっている」

 -10本のビームラインのうち産業用が7本あり、共用の3本は先端研究向けで国が整備を担っている。

 「ナノテラスのビームラインは(出資すると利用権が得られる民間向けの)コアリション利用と共用で相乗効果を発揮することが期待されている。共用ビームラインは産業利用を見据え、種を見つけ出す役割があり、コアリションビームラインは種を育てる役目を担う。そもそも種がなかったら育てようがないし、種だけあっても育たなかったら、新しい製品の開発などで実を結ぶことはない」

 「ビームライン1本はおおむね一つの実験手法に対応している。放射光を使った実験手法は世の中にたくさんあり(例えば共用は)3種類の実験しかできないということはあり得ない。提供できる放射光は高品質で、世界中からさまざまな種類の実験をしたいという声が寄せられている。コアリションユーザーに種をしっかりとバトンタッチできるよう、共用ビームラインの機能や数を強化したい」

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