【from Editor】
松の内も明けるというのに、旧年を振り返るのもなんだが、昨年ほど、「時代の軋(きし)み」を実感した年はなかった。
溶解したように無力感を漂わせる政治。弱体化したわが国をまさに、草原の鹿を猛獣が襲うかのように、威圧してくる中国やロシアなどの近隣諸国。経済の国際競争力も弱まるばかり。
「正義」の基軸と曲がりなりにも信じられてきた検察庁をめぐっては、剛腕政治家を不起訴としたものの、新制度の国民参加による検察審査会が強制起訴を決定。特捜検事たちによる証拠の改竄(かいざん)・隠滅。「外交判断」という“超法規的措置”による凶暴な中国漁船船長の釈放という瓦解(がかい)が相次いだ。
また、“禁秘”とされた警視庁公安部のインテリジェンスはだだ漏れ状態。ウィキリークスによる外交機密暴露。元海上保安官は動画投稿サイトに衝突映像をアップし、国会の論戦で「ユー・チューブ」という言葉が飛び交った。
都内最高齢はミイラで発見され、100歳を優に超えた行方不明の多くのお年寄りの存在も明るみに出た。そして、異常気象をまさに肌で感じた酷暑。枚挙にいとまがないとはこのことだろう。
「これまでとは、何かが変わった。従来とはある一線を越えたエリアに、われわれや社会は入ってしまったのではないか。両極端であったはずの価値の一線が崩れているのではないか。はたまた、一線を越える瞬間とは」
こうした仮定の考察に基づき、元日の紙面から、大型通年企画「ボーダー その線を越える時」(東京版)はスタートした。
「Xジェンダー」という男でも女でもない「第三の性」を追い求める人。「コンピューターを親に持つ」という「人工生命体」。「異種臓器移植」。「生きていることと死ぬこと」の境界をめぐる変化。各所に出現する「モンスター」たち。「情報エリートと一般人の境目消失」…。
精鋭の社会部員たちが、次々と驚愕(きょうがく)のネタを集めてきた。その一部をすでに元日付のプロローグ、続く「第1部」で紙面掲載し、ご紹介している。
インターネットの出現で、情報の「大型出し口」は独占されるものではなくなった。しかしながら、社会全般を機動的にウオッチし、「時代のありさま」を伝え、隠された事実をえぐり出し、適切に伝える役割は健全な社会に欠かせない。“ニュースハンター”集団で今年もあり続けたい。(社会部長 近藤豊和)