個別指導vs集団指導から学習塾業界vs異業種に。
家庭教師、通信教育、教材会社、そして…。
戦いの場は、ついに業界の垣根を越えた!
栄光ゼミナールの筆頭株主がさなる、それともZ会に。早稲田アカデミーが個別指導に進出。
家で塾の授業が受けられ、iPadが教材になる時代がやって来る?
これはまだ序章に過ぎない。今後、どうなる学習塾業界?
今後の学習塾市場において、少子化の加速により今後も学齢人口は減少が続くと推計されているが、その一方で、一人当たりの教育費は上昇している。リーマン・ショック後、教育費は下げたものの今後上がっていくものだと思われる。
この背景には、一家庭当たりの子供の数減少から経済的余裕が生まれ、一人の子どもを大切に育てる傾向が強まっていること。保護者の学歴(特に母親)の高さが教育熱を高め、教育の多様性を生んでいることがあげられる。だから「子供人口減少=学習塾衰退」や「塾倒産時代到来」などと一部では騒がれているが、単にそうだとは限らない。
学習塾業界にM&Aの大波が押し寄せていることは確かだが、そこにも2つの理由がある。ひとつは従来からある塾同士での争いだ。市場の寡占化に伴い、生き残りをかけた戦いがこれに当たる。もうひとつは少子化にもかかわらず、教育の多様化により市場の裾野が広がっており、そこに参入を図る企業が続出しているからだ(図)。現在入り乱れるその戦いを、6つに分類し考察してみた。
1.学習塾内戦
弱肉強食と言おうか、大手による中小塾の買収が加速している。買収までいかなくても株所得や業務提携を合わせればかなりの数になる。一例をあげると、さなる(栄光の筆頭株主、三島進学ゼミナール等買収、成学社と業務提携)、リソー教育(伸芽会等買収)、市進 HD(進学会やウィザスと業務提携)、明光ネットワークジャパン(東京医学進学会の買収、早稲田アカデミーの個別部門での業務提携)。また、トライなどの家庭教師の動きも見逃せない。中小や細かなものを探していくときりがないが、今や買収や業務提携の場は塾内だけに留まらない。
2.予備校からの参戦
塾の内戦状況を少し離れているところから監視しているのが予備校だ。大手予備校はその豊富な資金力を使って、相次いで塾を買収している。ナガセ(四谷大塚買収、早稲田アカデミー株式取得等)、代々木ゼミナール(SAPIX買収)、河合塾(日能研買収)がそうだ。各社ともにM&Aを通じて、教育の上流から下流までを統合していく垂直統合型の戦略をとっている。
3.通信教育からの参戦
塾とかなり近い関係にある通信教育には2つの超大国がある。ベネッセコーポレーション(東京個別指導学院買収、アップ資本・業務提携)、学研HD(桐杏学園買収等)の2つだ。こちらも予備校と同様に潤沢な資金を武器に塾業界に攻め入る。ただし、ベネッセは上場企業の大手を、学研はどちからというと中小規模の買収に熱心だ。
4.教材会社からの参戦
この戦いで、大変面白い位置にいるのが教材会社だ。それは今後、デジタル教材の普及に伴い、良質な教材(コンテンツ)は引っ張りだこになる可能性を秘めているからだ。Z会の増進会出版社は、栄光やウィザスの株式取得をはじめ、市進HD・学究社・進学会・栄進館と業務提携を結んでいる。
5.IT系からの参戦
ここでは二系統の動きがある。その一つが映像教材や映像授業だ。ITインフラの向上と2009年に起きたパンデミックで、映像系はすっかりと市民権を得た。既に映像教材・授業を導入もしくは導入予定の教室も多いことだろう。もうひとつが電子教科書であり、2010年は電子書籍元年と言われるように、国をあげて2015年に電子教科書の導入が騒がれている。この2つの動きは、いよいよ教育でもITが無視できないばかりか、主要パーツに成り上がろうとしていることを示唆している。今後ITは、塾と教材(コンテンツ)を繋ぐ接着剤のような役割になってくるのではないだろうか。
6.外資からの参戦
市場規模1兆円強(*)、大手でも売上高数百億円の学習塾業界だが、収益率はどの業界の中でもトップクラスだ。投資を目的とした外資が関心を示しても、なんら不思議ではない。実際に「塾ビジネスの動向に興味がある」とは、中堅規模外資企業の幹部。
(*)2010-2011学習塾白書調べ