ネアンデルタール人、初めに顔が進化か

 スペインの洞窟から出土した人骨の調査により、ネアンデルタール人の顔面は頭蓋よりも先に発達したことが分かった。
 ネアンデルタール人は先史時代に生きていた初期人類の一種族だ。ずんぐりした骨太の体型と大きな鼻で知られ、ヨーロッパと西アジアに分布していたが、化石記録は約2万8000年前を最後に途絶えている。
 スペインの洞窟シマ・デ・ロス・ウエソス(「骨の採掘坑」の意)で発見された17の頭蓋骨を調べたところ、初期ネアンデルタール人は特徴的な太い眉と大きな顎を約43万年前の時点で獲得しており、大きな脳などネアンデルタール人に特徴的な頭蓋の発達よりもずっと早いことが分かった。
 マドリードにあるUCM-ISCIII人類進化・行動合同研究センター(Centro Mixto UCM-ISCIII de Evolucion y Comportamiento Humanos)所属の研究リーダー、フアン・ルイス・アルスアガ(Juan Luis Arsuaga)氏は、「これらは最初期のネアンデルタール人だ」と話す。「ネアンデルタール人の進化や、それと比較した現生人類について、これらの骨から多くのことが分かるかもしれない」。
◆骨をめぐる解釈
 シマ・デ・ロス・ウエソスは、スペイン北部にある長さ500メートルの洞窟の端にあり、地表から14メートル以上も降りる深いくぼみだ。穴はホラアナグマの骨が詰まった泥の層に覆われていたが、その下に「目を見張る、美しくさえある人骨の化石がまとまっていた」と、ロンドン自然史博物館の古生物学者クリス・ストリンガー(Chris Stringer)氏はEメールでの取材に答えた。
 1983年にこの地で発掘が始まって以来、少なくとも28人分、6500個もの人骨が見つかっており、1カ所から出土した古代人骨化石としては世界最多だ。アルスアガ氏も「大量の骨が出ている」と評価する。
 新たに研究対象となった7個を含む頭蓋骨には、顔の特徴が25ほどある。大きく平たい大臼歯、大きな顎、突き出た鼻、太い頬骨、隆起した眉など、もっと時代が下った20万年前以後のネアンデルタール人に典型的なものだ。
 ストリンガー氏は、シマ・デ・ロス・ウエソスの頭蓋骨を初期ネアンデルタール人に属するとみている。一方、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館の古生物学者イアン・タッターソール(Ian Tattersall)氏は、これらは初期人類から分かれた一集団だと考えている。「“シマ原人”(人類の仲間)はネアンデルタール人に見られる特徴を顔を中心に多く備えているが、進化を遂げたネアンデルタール人とは明らかに異なる」と同氏は語る。
 研究ではこの点に関してさまざまな可能性が考えられるとしており、シマの頭蓋骨はネアンデルタール人の亜種か、ネアンデルタール人に近縁のより古い種である可能性を挙げている。
◆顔が語る生活
 ネアンデルタール人がたくましい容貌を進化させたのは、氷河期の寒冷な気候条件の克服と関連付けられてきた。しかしアルスアガ氏は、洞窟のある地は43万年前には現在よりわずかに寒く乾燥しているだけだったとして、こうした説明に異議を唱える。
 アルスアガ氏はむしろ、ネアンデルタール人の強い顎は前歯による咬合力を最大化するために進化した可能性があり、40万年以上前に彼らの食物または生活習慣に何らかの変化が起こったことを示すと考えている。
 ドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の古生物学者ジャン・ジャック・ユブラン(Jean-Jacques Hublin)氏は、シマの頭蓋骨はネアンデルタール人のような顔だが、後のネアンデルタール人に見られる頭蓋の発達がない点に注目する。
 シマ・デ・ロス・ウエソスの頭蓋骨は、ネアンデルタール人のような顔の特徴がありながら、頭蓋は小さいという点についてアルスアガ氏は、「アクリーション(段階的蓄積)モデル」と呼ばれる進化パターンを表すと考えている。先史時代のヨーロッパ全域で初期人類は枝分かれと紆余曲折を経ながら進化しており、この種が順調に進化の道筋をたどったのではないということだ。シマのネアンデルタール人が後のネアンデルタール人の祖先だという保証すらないと、アルスアガ氏は話す。それ以上伸びることなく消えていった枝かもしれないのだ。
 研究成果は、6月20日付で「Science」誌に掲載された。
Dan Vergano, National Geographic News

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