“ネオ賃貸”人気の理由は? ガレージ付き趣味部屋、つながり提供する巨大シェアオフィス…

自宅にモノを置くスペースが足りない人のための「トランクルーム」、手軽に仕事の拠点を作れる「レンタルオフィス」、他人と住まいやオフィスを共用する「シェアハウス」「シェアオフィス」など、借りる側のニーズが新しいスタイルを生み出してきた賃貸。そして今、これまでの常識を破る新たな賃貸のトレンドがいくつも生まれている。その背景にはどんなニーズが潜んでいるのか。近ごろ人気を呼んでいる「賃貸スペース」を追った。
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ガレージ+フリースペースの「賃貸ホビースペース」
 ガレージにフリースペースをプラスしたユニークな賃貸ホビースペースが今、関西を中心に人気を集めている。開発したのは全国380棟、2万5000室のトランクルームを展開する業界最大手の「ライゼ」。トランクルームの1階部分をシャッターガレージにして車庫や大型倉庫としても賃貸を始めたところ、「シャッターガレージとトランクルームをセットで借りたい」というユーザーが多数いたのがきっかけだった。
 同社では自社ユーザーの声をもとに検討を重ね、2006年にさまざま趣味に対応できる賃貸ホビースペース「ライゼホビー」を発売。現在は関西エリア・関東エリア合わせて30店舗以上、累計200室以上を販売している。2011年12月にオープンした「ライゼホビー・多摩センター店」は、受付初日に半分以上の部屋が埋まったほか、関西でもオープンまでに全室予約済みになった店舗も多い。人気のロフト型やメゾネット型のホビールームは、ほぼ満室の状況だ。
 ユーザーの比率ではやはり男性が多いという。クルマやバイクを入れて整備するといった使い方に限らず、アトリエや工房、アウトドアグッズのセッティングスペース、コレクションのディスプレイルームや書庫・書斎として、さらには隠れ家的な場所を求めて借りる人も多いとのこと。こうしたニーズが増えていることについて同社は、「飲食や洋服などの生活費は抑えても、自分の趣味にはお金をかけるという人が増えているのでは」(「ライゼボックス 東京 営業部 鈴木正倫氏)と見ている。
 地域によって異なるが、「ライゼホビー」賃貸料金の中心価格帯は7~8万円台。都内でワンルームマンションが借りられる額だが、例えば賃貸料8万4000円の「ライゼホビー・多摩センター店」の広さは1階のガレージと2階フリースペース部分の合計で約27.3畳(約41平米)。一般的にガレージだけを借りても3~4万円はするうえ、もともとガレージ付き物件自体が稀少という理由で歓迎されているという。なかには東京に自宅のある人が千葉のガレージ付きホビースペースを借りているケースもあるそうだ。
 トイレや散水栓、エアコンやコンセントもあり、インターネットは無料。電話引き込みもでき、電気代は50kwh/月まで無料。壁面はフリーボードになっていて釘やビスの打ち込みができるので、自由にカスタマイズすることも可能だ。リモコン式自動シャッターも標準装備で、個別セキュリティシステムも完備している。
 また同社では、個人向けホビールーム「ライゼホビーパーソナル」を2012年1月20日に発表。なんと自分で組み立て可能な「ガレージキット」もラインアップに入っている。
スパやバー併設も! ユニークな巨大シェア物件が続々
 一軒家を友人同士で借りて住む「シェアハウス」が若い層に人気となっている今、ユニークな巨大シェア賃貸物件が次々に登場し、好調だという。例えば、345区画のオフィススペースやスパ、フィットネス、バーなど豪華な共用部を設けた「the SOHO」(延床面積約2万8000平米、、貸主/正友地所)、湾岸エリア・日の出にある元新聞社印刷工場を改装し、クリエイターに貸し出している「TABLOID」(4380平米、、貸主/リビタ)、そして2011年12月にオープンしたシェア型複合施設「THE SHARE」(3823平米、貸主/リビタ)。これらはいずれも不動産コンサルティング会社「リアルゲイト」が企画・運営や管理を手掛けている物件だ。
 「探しに来る人は多少高くてもプラスアルファが得られる物件を強く求めている」(同社の岩本裕代表)。1棟まるごと使えるような巨大物件はプレミアム感のある共用部分を作りやすく、それをシェアできる点が人気という。運営側にとっては巨大な建物を一棟まるごと使用するリスクは大きいが、「イベントなどを行っても大きな空間だと来場人数が多くなり、SNSなどの口コミによって2乗、3乗の宣伝効果がある」(岩本代表)とのこと。
 また最近ではリアルなつながりを求める人が増えているため、運営側では入居者同士の交流を積極的にバックアップすることで、そうしたニーズを満たしている。the SOHOの入居者に聞くと、いわゆる雑居ビルとは一線を画すコンセプトを高く評価している声が多い。「ひとつの街として進化を続けているところが魅力。いろいろと交流できる仕組みや仕掛けがあるビルなので、刺激を受けている」(「Dip」の川口りえ代表)「the SOHOという空間がひとつのメディアになる可能性を秘めている」(コミュニケーションとデザインが専門の「オアゾ」の松田龍太郎代表)。
 また、これまでにも「オフィス利用者同士の交流が盛ん」「居住者同士の交流が盛ん」をアピールするシェア物件はあったが、そのふたつが交じり合うことはなかった。しかし2011年12月にオープンした大型複合シェアハウス「THE SHARE」は、ショップ&オフィス利用者とアパートメント利用者が自然に交流して情報交換できることを目指したシェア型複合施設。シェアハウス家賃は共益費込みで9万5000円から、シェアオフィス(フリーデスク)は共益費込みで2万円からという価格設定だ。
 オープン後約1カ月でショップ&オフィスフロアとアパートメント全64室がほぼ満室となり、現在も空室待ちが続いているという。岩本代表は「原宿という立地がショップ・オフィス・アパートメントのシェア型複合施設に向いていたのでは」と分析する。原宿に住みたがる人たちは仕事と生活をあえて区別しない人が多いため、オフィス利用者と居住者の間の心理的な垣根が低い傾向がある。生活者からの情報が仕事に生かされたり、仕事の情報が生活に役立ったりといった交流が自然に生まれているそうだ。
 同社では2012年3月末、PRの場を設けるなどさまざまな仕掛けが施されたクリエイター向けシェアオフィス「PORTAL POINT」を東京・青山にオープン予定だ。
利用者同士が“ゆるく結び付いて”働く「コラボオフィス」
 建物というハードに加えて「新たなワーキングスタイル」というソフトも提供しているのが、都内に4カ所のオフィススペースを展開し、300名近いクリエイターを会員に持つ「シェアード・コラボレーション・スタジオ co-lab」(以下 co-lab)だ。「co-labは単に経済的な理由でオフィスを分割する『シェアオフィス』やスペースを共有しながら個人が独立した仕事をする『コワーキングスペース』とは一線を画した“コラボレーション・オフィス”」(運営する「春蒔プロジェクト」の田中陽明代表)という。
 co-labの大きな特徴は参加資格が「クリエイターか、クリエイターをサポートする仕事をしていること」(作品確認など簡単な審査あり)だということと、co-lab自体がクリエイティブ・ディレクション機能を持っていること。会員はデザイナー、ライター、カメラマン、プロデューサー、社会企業家などで、外部クライアントからプロジェクトの依頼を受けた場合、co-lab会員でチームを編成して進めていく。ウェブサイトに全会員のプロフィールや仕事を公開しているので、何らかの課題を解決したい会員や外部クライアントが必要なスキルを持った会員を簡単に探し出せるのだ。2010年12月に実施された「TATAMO! これからの畳をつくるプロジェクト」もそのひとつ。これは廃棄処分され続けてきた短いイグサを利用し、畳の新たな可能性を引き出すプロダクトを考案しながら、畳の未来を提案していくプロジェクト。co-lab会員がプロダクト・デザイン、グラフィック・デザイン、マーケティング戦略などに参加して進めた。
 実はco-labはこうしたワーキングスタイルを確立するために考案された空間なのだという。「日本ではこれまで企業に所属するか、個人で自営業を営むかの二者択一でしか働き方を選べなかった。これからは企業組織型と個人型の「中間的な領域」でも働ける社会が必要であり、そのためには、目的に応じて一時的に“ゆるく結びつく”スタイルを確立することが必要だと考えた」(田中代表)という。
 Co-labのオフィス空間は、昔ながらの「長屋」を連想させるブース型の簡素なワークスペース。扉もなくてオープンにつながっているため、常に情報交換が可能でありながら、望めば邪魔されずに集中して仕事に取り組めるように設計されている。「しがらみのないのびやかな発想やコラボレーションはオープンな空間で刺激し合うことで生まれる」という考えから生み出された空間だ。また会話が生まれやすいこの形は、「バーチャル空間におけるコミュニケーションが拡大する時代こそ、長屋のようにリアルでウェットな人間関係に基づく場が重要」という考えに基づくものだという。co-labはクリエイターの創造性を高めるための空間・システムだが、「将来的には幅広い業界・職種に広げ、クリエイティブな思考を導き出すサポートをしていきたい」(田中代表)とのことだ。
なぜか“古くて新しい”「間借り」が人気
 なぜか今、「間借り」という昔懐かしいスタイルがじわじわ人気となっている。その原動力となっているのが、「間借り物件情報サイト」だ。
 「街には空いている場所がたくさんある。わざわざ新しく作らなくても、今空いている場所を使えばいいのでは」という考えで、2010年に間借り物件情報サイト「MaGaRi」を立ち上げたのが、「まちづくり会社 ドラマチック」の今村ひろゆき代表。わずか1年4カ月で100件以上の問い合わせがあり、成約率は3割を超えるという。
 最近の例では、渋谷のダイニングバーが昼の時間帯に店舗スペースを利用したい人の募集告知を出したところ、ネット通販が好調なため実店舗を探していた手作りマシュマロ専門店オーナーの若い女性が応募してきた。「まさか自分が渋谷に店を持てるとは思わなかった」と驚いていたという。
 一から店づくりを始めるとなるとかなり大変だが、こうした「間借り」なら小資本でも一等地に店を出すことが可能なのだ。またオーナーも自分の本業に影響がない「時間貸し」なら抵抗が少なく、お互いにメリットの大きい合理的な賃貸関係といえる。
 さらにユニークなのは、「逆・不動産」ともいうべき“Talent“という活動。通常の不動産情報サイトは物件情報ばかりだが、それとは逆に、「こういう目的に使える物件を探している」という借り手側の情報を掲載している。例えば、「若手漫画家だけで住む、トキワ荘のような共同生活の場を提供して欲しい」「週末だけ田舎の両親が作った野菜を売れる、もう使っていない八百屋さん募集」など。こうした、夢を叶えるための場所を探している借り手候補を“Talent”と呼んで紹介しているのだ。「一般的に賃貸物件のオーナーは自分の物件に住む人のことを深くは知ることができない。しかしこうしたはっきりした目的を持った居住者だと『安心して貸せる』と喜ばれる」(今村代表)という。
 しかし、なぜこれだけ「間借り」が人気なのか。「貸すほうも借りるほうも、『場所を所有する』という概念が変わってきているのではないか」(同)。また会社以外のプライベートな時間に趣味を追求する本格的な活動をしている人が増えていることも背景にあるようだ。本業以外に本格的な趣味を追求する人が増え、さらにネットなどのバーチャルでなく実際の体験をしてみたいと考える人が増えている。そういう人たちに「間借り」というスタイルがフィットするのだろう。
 今村代表によると、間借りの最大のメリットは経済面ではなく、貸す人と借りる人との「出会い」だという。その場所で活動をしている持ち主と、一部を借りて活動する間借り人の間には情報の交換があり、人脈の広がりがあり、そこから新しく生まれるものがある。例えば事務所の間貸し告知を出している「K2インターナショナル」(横浜で若者の自立・就労支援を行なっている団体)は、「もし社会事業への関わりを持ちたい人がここを借りるなら、私達が持っている横浜のネットワークが役に立つかもしれない」という。さらにK2インターナショナルは東日本大震災後に石巻に一軒家を購入し、石巻でボランティアなどの活動を考えている間借り人も募集している。
 「居場所を持つことはあらゆる活動の基本。やりたい気持ちがあるのに、場所がないばかりに機会を失っている人が多いのがもったいない。場所を持つ手伝いをすることで、何かを始めるきっかけをつくりたい」(今村代表)という。
 急激に多様化が進んでいるように見える「ネオ賃貸」スタイルだが、そこには共通するキーワードが見える。ひとつは「公私のあいまい化」で、仕事とは別の趣味や得意なことを深く追求し、さらにはそれをビジネスにしようと考える人が増えている。その結果、オフィスでも自宅でもない“新たな居場所”を求める人が増えている。
 もうひとつは「リアルなつながり願望」。SNSなどによって趣味や志向が似ている人とのつながりが増え、リアルな場にもそれを求める願望が強くなっている。そのため、場所を借りるのではなく人間関係が広がるような物件に人気が集まっているのだろう。
(文/桑原 恵美子)

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