ネット取引で覚醒剤浸透 キャリア官僚相次ぎ逮捕

東京・霞が関のキャリア官僚が覚せい剤取締法違反容疑などで相次ぎ逮捕、起訴された。仕事のストレス解消などで使ったとされ、いずれもインターネットを通じて違法薬物を入手していた。密売人が売買を持ちかけるネット上のツールは従来の匿名掲示板だけでなく、ツイッターなど身近な会員制交流サイト(SNS)にも拡大。犯罪組織と無縁だった一般社会の層でも違法薬物が容易に入手できる状況にあり、当局が警戒を強めている。

【表でみる】覚醒剤と乾燥大麻の押収量と推移

 ■情報収集

 「打ってみるとすっきりする感覚があったので、はまってしまった」。4月に警視庁に逮捕された経済産業省の元キャリア官僚、西田哲也被告(28)=覚せい剤取締法違反などの罪で起訴、懲戒免職=は当時の調べにこう話し、覚醒剤に魅了された経緯を説明したとされる。

 東大卒業後の平成25年に入省して資源エネルギー庁に配属され、東日本大震災後に注目を浴びた新エネルギー政策を担当した。「激務だった」。2年後に本省の自動車課に異動し、「この仕事、本当に好きでやっているのか」と悩むようになった。病院で向精神薬を処方されたが、もっと強い薬を求めた。

 インターネットで情報収集し、今年2月、東京・池袋の路上で密売人と接触。このとき初めて覚醒剤を買ったとされる。この覚醒剤を使い切った4月からは、ネットの匿名掲示板で見つけた別の密売人と連絡をとるようになった。

 価格は1グラム3万円。購入回数が3、4回に及ぶと、「値段が高いので頻繁に買えない」と考えるようになった。匿名掲示板で1グラム1万円程度で売る米国の密売人を見つけ、国際郵便で約20グラムを密輸入した。

 5月には覚醒剤と大麻を所持したとして、文部科学省のキャリア官僚、福沢光祐被告(44)=覚せい剤取締法違反などの罪で起訴=が関東信越厚生局麻薬取締部に逮捕された。昨年11月には覚醒剤を所持していたとして、当時、外務省課長補佐だった男が警視庁に同法違反容疑で逮捕されており、いずれも入手ルートはネットとされる。

 ■隠語が氾濫

 《パキパキの氷や自転車あります! 郵送も可》

 ツイッターには違法薬物の宣伝とみられる投稿が散見される。捜査関係者によると、「氷」や「アイス」は覚醒剤、「自転車」はコカインを指す隠語だ。警察などの摘発を警戒して直接的な表現を避けながら無料通信アプリなどの連絡先を記載し、連絡してきた客と取引の交渉を行うケースが目立つ。

 元埼玉県警科学捜査研究所乱用薬物科長の雨宮正欣(あめみやまさよし)・法科学研究センター所長によると、違法薬物売買の主流はこの10年で路上からネットへと移行している。匿名掲示板への書き込みに加え、近年はより人目につきやすいSNSでも取引を持ち掛ける投稿が盛んに行われるようになっている。

 例えば、ツイッターは特定の語句をキーワード化して抽出する機能を備えており、隠語をキーワードに設定すれば薬物関連の投稿を絞り込みやすいとされる。さらに、雨宮氏は「売人にとってネット取引は新規顧客の開拓が目的。利用率の高い媒体に敏感に反応している」と指摘する。

 薬物裁判を手掛ける堀井準(ひとし)弁護士もネットを通じた売買が増えたと感じており、「ネット注文で郵送してもらえば密売人に会わずに済む。買い手の心理的ハードルが下がる」と話す。

 ■大麻栽培方法も

 警察庁などによると、全国の警察が押収した覚醒剤の量は30年まで3年連続で1トンを超えた。今年6月には警視庁などが静岡県内で約1トンの覚醒剤を押収しており、高い国内需要があるとみられる。

 乾燥大麻も3年連続で増えており、ネット上では海外サーバーを悪用した大麻栽培方法の紹介サイトも複数立ち上がっている。

 捜査関係者は「違法薬物を唆(そそのか)すネット情報の誘惑に対抗できる効果的な啓発をどう行うかが課題だ。書き込みを調べ密売人を摘発するなどサイバーパトロールによる地道な捜査も進めていく」と警戒を強める。

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