【岩波精】ネット選挙の解禁で心配されたブログや掲示板での誹謗(ひぼう)中傷だが、書き込みの削除を求める依頼はほとんどない。専門家は「無視したほうが得策だと判断しているのでは」とみる。
大手プロバイダー・ニフティ(東京都新宿区)には4日の公示後、削除依頼は1件も寄せられていない。丸橋透・法務部長は「初めての国政選挙なので、発信者側も様子を見ているのではないか。候補者や政党に対する具体的な書き込みは少ない」と話す。業者ら約160社で作る日本インターネットプロバイダー協会にも、削除依頼を受けたとの報告はないという。
ネット選挙解禁を受けて、選挙期間中の悪質な書き込みに素早く対応するため、法律上の特例が設けられた。候補者や政党から依頼があった場合、発信者の連絡先の表示がなければプロバイダーはすぐに削除できる。表示があっても、プロバイダーからの通知に回答がなければ2日後に削除可能だ。
同社には一般的な削除依頼が年間100件前後寄せられるが、実際に削除するのは1~2割という。発信者側から「削除してほしくない」との反論があった場合、判断はプロバイダーに委ねられる。丸橋さんは「何が名誉侵害にあたるのか、一律に線引きすることは難しい」という。
今後、選挙戦が終盤に入り過熱すると、削除依頼の急増も想定される。同社では投票日前日には法務部員が総出で対応するという。
デマや誹謗中傷をまとめるサイト「ネット選挙110番」には、5月末の開設後、陣営や支持者から約20件の通報があった。このうち陣営に確認できた2件を近く掲載するという。自民比例区と民主選挙区の2陣営で、ともにブログやツイッターへの書き込みに対して事実無根だと主張している。
サイトは選挙プランナーや大学教授らで作る一般社団法人「日本選挙キャンペーン協会」が設置。中傷の内容と候補者からの反論を載せ、有権者が比べて判断できるようにする狙いだ。
協会事務局長で選挙プランナーの松田馨さんは「細かな誹謗中傷に反論したり削除を求めたりすると、逆に炎上する可能性もある。放置すれば沈静化することも多く、ほとんどの陣営は無視しているのでは」と話す。