ネット選挙解禁 準備不足で「本番」 東北の選管

インターネットによる選挙運動が解禁される参院選(4日公示、21日投票)を、東北各地の選管は準備不足で迎えることになりそうだ。ネット環境が貧弱で各陣営や有権者からの問い合わせに対応できない選管も多い。専門家は「選挙の啓発事務を担う組織がネット選挙の意義を理解していない」と指摘する。
 ネット選挙は、ツイッター、フェイスブックなどの会員制交流サイト(SNS)が「主戦場」になるとみられる。だが、宮城県選管は立候補予定者によるSNS利用状況を把握していなかった。
 宮城県選管は「東日本大震災で県外に避難している有権者に、選挙公報や不在者投票用紙をミスなく発送しなければならない。事務局職員6人という少ない陣容では、確実な選挙事務の執行を優先せざるを得ない」と弁明する。
 街頭演説など立候補者の選挙運動をリアルタイムで動画サイトに投稿する陣営もありそうだが、市町村のパソコンは情報保護のため、動画サイトに接続できない設定が一般的。これでは問い合わせがあっても画像をチェックできない。
 「選挙違反の取り締まりは本来業務の範囲外」。青森県選管は、こう割り切って「問い合わせがあったときに個人的に確認する程度」だ。
 一方、ネットで積極的に啓発活動を展開する選管もある。岩手県選管は、ツイッターやフェイスブックで「未成年の方はネットでも現実世界でも選挙運動はできません」などと発信。事務局は「新しい情報を小まめに更新したい」と語る。
 早大マニフェスト研究所の中村健次席研究員は「ネット選挙は初の試みだけに何が起きるか予測できない。選管が従来通りの態勢では、不測の事態に対処できないのではないか」と懸念する。
◎ネット運動初の警告宮城県警
 4日公示される参院選で、インターネットを利用した事前運動の疑いがあるとして、宮城県警が宮城選挙区(改選数2)の立候補予定者の陣営に文書頒布の警告1件を出していたことが3日、捜査関係者への取材で分かった。県警がネットによる選挙運動で警告するのは初めて。
 捜査関係者によると、陣営はブログに立候補予定者の氏名を出した上で「参院選に出馬するのでよろしくお願いします」という趣旨の文言を書き込んだという。
 このほか、県警は3日までに、文書掲示違反などで12件の警告を出した。
◎東北各県警 取り締まりに不安
 参院選を前に、インターネットで候補者を装う「成り済まし」や誹謗(ひぼう)中傷などを取り締まる東北の各県警は、不安を拭いきれずにいる。サイバー犯罪の複雑化で発信源の特定が難しくなっていることに加え、ネット選挙で発信者が激増し、対処しきれない可能性があるためだ。
 6月上旬、宮城県庁に県選管事務局と県警の幹部らが集まった。「従来以上に協力し合いたい」。県警は県選管に違反情報の提供を要請。県選管も連携を約束した。
 県警は陣営にも情報提供の協力を求めている。捜査2課は「生活安全部のサイバー犯罪対策室などから応援をもらい、厳正で公正な取り締まりを目指す」と強調する。
 ただ捜査現場には不安感が漂う。昨年7~9月、遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから小学校の襲撃予告などが書き込まれ、警視庁などが男性4人を誤って逮捕する事件も起きた。技術の進歩で捜査が後手に回るケースが増えている。
 成り済ましなどを実行する人物は海外のサーバーを経由するなど、特定を阻む工作をすることも想定される。宮城県警幹部は「発信履歴を追いきれず、立件が難しい場合もありうる」と漏らす。
 岩手県警幹部は、公示後は書き込み数が跳ね上がると予想し「ネット上を全て監視するのは無理だ」と話す。サイバー犯罪対策室などから情報解析担当の6人が刑事部に増員されるが、捜査は通報をきっかけにするしかないのが実情という。
 ITに詳しいジャーナリストの佐々木俊尚さんは「警察はIT担当のスタッフが足りず、育成も追い付いていない。サイバー犯罪対策室を専門部に格上げするなど組織を再構築していくべきだ」と指摘する。

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