ノーナレ番組増加 説明過多なTVに「余白」の必要性示す

テレビ番組において、その場の状況をわかりやすく説明し、雰囲気を盛り上げるナレーション。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)や『水曜日のダウンタウン』(TBS系)といった番組では、出演者の行動にツッコミを入れるという役割も担っている。だが最近、ナレーションが一切ない「ノーナレーション番組」がじわじわと増えている。その魅力とともに背景にあるものは何なのか?

◆旅番組・散歩番組に多いノーナレーション

出川哲朗が電動バイクで日本を縦断する『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京系)。昨年11月18日には歴代最高視聴率9.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録したが、この番組もまたナレーションはない。

聞こえてくる“音声”と言えば、主役の出川と同行するディレクター、さらには毎回変わるゲストタレントとのやり取りのみで、途中立ち寄った観光地などもすべてテロップによる説明で終わり、また出発地から現在地までの距離を示す地図が出る際もナレーションは入らない。

ほかにも、マツコ・デラックスが深夜の東京近郊を歩く『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)もノーナレーション。そこに聞こえてくるのは、マツコと、時々入るディレクター、さらには街の人々とのやり取りだけだ。

NHK BSプレミアムで不定期放送され、新シリーズが今春からスタートする『にっぽん縦断 こころ旅』。俳優・火野正平が、全国の視聴者から寄せられた手紙に書かれた「こころの風景」を自転車で訪ねる旅番組だ。こちらもノーナレーションだ。

こうして見て来るとナレーションがないのは、旅番組や散歩番組に多い。以前ヒットした『ウンナンの気分は上々。』(TBS系)もそうだったが、「歩き、人と触れ合う」という単純な構造は、余計な説明が要らないのかもしれない。

◆ドキュメンタリーでもノーナレーションが登場

だが最近NHK総合やNHK BS中心に、ノーナレーションによる番組が数々登場している。そのラインナップは主にドキュメンタリーが多い。

昨年8月、BS-1では『ノーナレーション・ドキュメンタリーの世界 「光棍児(こうこんじ)中国の結婚できない男たち」』が放送。これは一人っ子政策で男女のバランスが大きく崩れた中国で、現地では光棍児と呼ばれる独身男性たちが、露骨な要求を突きつける女たちの狭間で揺れ動く心模様を描いたもの。ナレーションがないことによって男女の本音と建前がダイレクトに伝わり、心に残った番組であった。

さらには『ノーナレ』という番組も度々放送されている。現役時代の加藤一二三・九段に密着したり、47歳にして未だにプロボクサーを続ける辰吉丈一郎と、夫の世界王者への返り咲きを信じる妻の愛の形を描いたり、冬の日本海で、借金返済や高級車購入など、さまざまな目的と過去を背負った男たちが漁船に乗り込み、高級食材である松葉がにを捕る生活を、ナレーションがない状態で追跡している。

◆過剰説明へのアレルギーか

上記に挙げた番組は、ドキュメンタリーにはナレーションがつきものという常識を覆し、登場人物の表情や彼らが出向く場所なども、撮ったままを映し出しているのだ。状況を説明するテロップも少なく、無音の時間が続くこともある。その「むき出し」な感じが、時に説明過多で辟易することも多いテレビ番組の中にあって、「考えさせる」余白を作り出す。

もちろんナレーションがないと物足りない、寂しいといった感情が生まれることも事実だが、You Tubeなどで一般人の投稿動画を目にする機会が増えているだけに、今後も意外と抵抗なく受け入れられていくのだろう。ノーナレのプログラムから新しいヒット番組が生まれる可能性もある。今後に大いに期待したい。 (芸能ライター・飯山みつる)

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