ノープラン? テレ東″ガチ番組″が起こす奇跡 「YOU は何しに日本へ?」はイノベーションの宝庫!

ジョージ・ワシントンの肖像画に、フリーメイソンのシンボルマーク入り手ぬぐいにマグカップ。参加者のネクタイにも、ベルトのバックルにも、あのシンボルマーク。そして、なぜか餅つき大会が始まり……。
ネット上では「神回」と話題になっている5月26日放送の「YOU は何しに日本へ?」(テレビ東京)。筆者は、この放送を生で見ていたのですが、「インドネシア青年たちのカツオ漁ドキュメント」でほっこりした後に、フリーメイソン潜入ドキュメントが出てきたので、思わずのけぞってしまいました。
■常識ではありえない、フリーメイソンへの潜入
筆者は、東京タワー近くのテレビスタジオでよく仕事をしていたことから、フリーメイソン日本グランド・ロッジ(本部)の前を通ることがありました。
各種報道によれば、フリーメイソンは300年以上も前にヨーロッパで発祥した兄弟愛を深めるための友愛団体とのことですが、その活動は謎に満ちており、「世界を裏で操る秘密組織」とも、米国の歴代の大統領の多くがメンバーだったともうわさされています。
映画『ダ・ヴィンチ・コード』や「やりすぎ都市伝説」(テレビ東京)でフリーメイソンに興味を持っていた筆者は、あの入口の中にどんな世界が広がっているのか、見たくてたまりませんでしたが、秘密結社なのだから、到底中には入れないだろうと思っていました。
ところが、「YOU」のカメラは、いとも簡単に、あの建物の中に入っていきます。その間、カメラ、回しっ放し!
最近の日本のテレビ番組で「YOU は何しに日本へ?」ほど、驚かせてくれる番組はありません。その理由は、この番組が多くの「イノベーション」を起こしているからです。
もともと、2013年1月に深夜で放送が始まった番組は、あっという間に話題になり、4月にゴールデンに昇格。視聴率も、2013年上期には7.4%、下期には9.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)とうなぎ上り。テレビ東京の社長定例会見によれば、2月24日の放送では、11.2%を記録したそうです。
■ノープランだらけの番組構成
番組をごらんになっていない方々のために、少しだけ解説をすると、「YOU は何しに日本へ?」は、空港で日本にやって来た外国人をつかまえて、「Why did you come to Japan?」
と聞きまくる番組です。
インタビューだけで終わる人もいれば、空港の空いているスペースで芸(空手、歌、ダンス、モデルウォーキングなど)を披露してもらうこともあります。そして、日本で面白そうなことをやってくれそうな人には、その場で交渉して「密着」することになります。
この「密着ドキュメンタリー」部分が、番組の名物となっています。
前出のフリーメイスン潜入ドキュメントは、空港でインタビューしたフィリピン人の会社経営者が、たまたま「フリーメイソンの行事に参加する」と言うので、「ついていったら撮影できた」という代物です。
この密着ドキュメントからは、多くのスターが登場しました。特に人気が高いのは、予定を決めずに日本国内を旅する「ノープラン」の旅人たち。
自転車旅のマーティン(ドイツ)、徒歩旅のルーク(イギリス)、ニセコ旅のオイスティンとアーランド(ノルウェー)、そして最近では、指差し旅のアレクサンダーとジョナサン(デンマーク)。ネット上でも大人気となりました。
番組のヒット企画も「ノープラン」ですが、この番組のヒットの理由も「ノープラン」なところです。日本のテレビ番組は、特に確固たる戦略は立てずに制作されるものがほとんどですが、「YOU」に限って言えば「ノープラン」を極めたことが、逆に戦略となって功を奏したといえそうです。
■ボビーのナレーションのすごい威力
「YOU は何しに日本へ?」は、テレビ界にイノベーションを起こしている番組だと前述しましたが、ここでは、テレビ界の常識を破壊している象徴として、筆者が気づいた点を4つ紹介したいと思います。
①ボビー・オロゴンのナレーション
②制作側の「設定」がない
③起承転結の「結」がない密着が多い
④低予算なのを隠さない
ひとつ目のナレーションですが、これは筆者がいちばん驚いたことです。なぜなら、「ナレーターは美しい日本語を話さなくてはならない」というテレビ界の常識をぶち壊してくれたからです。普通のスピードで話すと何を言っているのかわからなくなるからか(?)、ナレーションはかなりゆっくりめ。しかも通常の番組に比べると、ナレーションの尺(時間)は、短めです。最初は、「なぜボビー?」と思いましたが、耳で聞いただけで、「外国人の番組だ!」とわかる効果は絶大です。
2つ目の「設定」がないのは、「進め!電波少年」(日本テレビ系)や「サバイバー」(CBS)、「シンプル・ライフ」(米FOX)などアメリカのリアリティ番組との大きな違いです。通常、こうした密着ものは、制作側がある設定を用意します。「この島で暮らす」「ここで貧乏な暮らしを体験してみる」「マンデラ大統領に会いにいく」……。
その理由は、制作側が、撮影方法やスケジュールなどをコントロールできるからです。特にタレントが登場するものは、さまざまな制約があり、何らかの設定を設けないと番組として成立しません。ところが「YOU」の主役は外国人の素人さんなので、設定は外国人が決めます。何日撮影するか、どこへ行くかも彼ら次第。これは制作側にものすごい労力を要しますので、アメリカだと完全に予算オーバーとなってしまうでしょう。
3つ目の起承転結の「結」がないというのも、「ドキュメンタリーには締めがないといけない」という思い込みが間違いであることを教えてくれます。普通、日本に来る外国人に密着取材というと、必ずまとめのエンディングシーンがあります。他局のドキュメンタリー番組は、どれも「別れのシーン」や「美しい締めコメント」などで終わっているはずです。
ところが、この番組は「ガチ」なので、外国人が密着の途中で連絡がとれなくなったり、帰国してしまったりするのはしょっちゅう。その場合も「密着取材終了」というテロップ1枚と「小さな世界」のテーマソングで終わってしまいます。「えっ、ここで終わり?」と思いますが、「あっ、これガチだもんね」と妙に納得してしまうから不思議です。
そして4つ目が、ゴールデンの番組なのに予算がないことを隠さないことです。通常、ゴールデンの番組は「予算をかけました!」というのをわかりやすく示すために、豪華セットの前に、たくさん芸人さんを並べて、とにかく華やかに見せることに努めます。ところが「YOU」でMCを務めるバナナマンの設楽さんと日村さんを撮影しているのは、小さな会議室。しかも背景のブルーシートは「ガムテープ」で張ってあります(普通はクロマキー撮影用のスタジオなどで撮影します)。
何という手作り感! この番組は、無駄なところに予算は使わず、とにかく面白い外国人の映像を撮るためのロケに、多くの予算を割いていることがわかります。
経営学の世界では、「イノベーションは制限のあるところから生まれる」と言いますが、「YOU は何しに日本へ?」はまさに「低予算」という制限から生まれた革新的な番組です。そしてノープランだけれど、「ガチ」にこだわり、ロケの手間暇は惜しまない。船酔いしながらも漁船でカメラを回し続けたり、富士山を登ったりするスタッフには本当に頭が下がります。芸人さんやタレントさんの話芸に頼りっぱなしのひな壇バラエティショーとは、一線を画すものです。
ということで、しばらく筆者は「YOU は何しに日本へ?」のイノベーションがどこまで進んでいくか、注目していきたいと思っています。
ところで、指差し旅の2人、無事、金沢の「おでん屋三幸本店」に到着したかな~~。放送があったりなかったり、そのあたりも極めて「ノープラン」なこの番組。来週も放送があることを祈るばかりです!

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