「ハイタッチ、しませんか」―。JR茅ケ崎駅に10月、不思議なグループが現れた。毎週水曜日、通勤・通学で駅へと急ぐ市民らに笑顔で声を掛け、ハイタッチを求める。ただそれだけ。賛同してもらえなくても、嫌な顔をせず、次々に声を掛けていく。何が彼らをそうさせるのか。早朝の駅に向かった。
「おはようございます」。水曜日午前7時。駅南口近くの歩道に、縦1列に並んだ男女4人。みな右手を掲げ、足早に通り過ぎようとする市民にこう呼び掛ける。「ハイタッチ、お願いします」
無視を決め込む人、慌てて下を向いて歩き去る人、手で制して駅に向かう人…。やはり、そう簡単には成功しない。
だが、彼らは決してめげない。その後ろ姿に、笑顔で「いってらっしゃい。お仕事頑張って」と告げると、また前を向く。
しばらくして、スーツ姿の男性が照れくさそうにハイタッチをした。すると後ろの男性もつられたように続く。パチンッ、パチンッ。4人とハイタッチをし終えると、男性らは笑顔で駅へと消えていった。
「笑顔になってくれると、やっぱりうれしいですよね」。デザイナーの宇野なつきさん(30)は喜ぶ。4人は茅ケ崎在住の「茅ケ崎ハイタッチ隊」。10月6日から、活動を始めた。
そもそものきっかけは? その鍵を握るのは、フリーライターの池田美砂子さん(32)だ。池田さんは昨秋、仲間6人とハイタッチ隊を結成し、都内を中心に活動している。「下を向いて元気なく通勤する社会人を少しでも元気にしたかった」。あいさつだけでは返してくれない。一つのアクション=ハイタッチを加えた。活動内容を簡易投稿サイト「ツイッター」でつぶやいていると、コンサルタント藤川忠彦さん(49)が興味を持った。「茅ケ崎でもやろうよ」。こうして学校法人理事長の和田公人さん(50)を加えた4人が集まったという。
活動はスタートしたばかり。お世辞にも市民が快く受け入れているようには、まだ見えない。数えてみると、ハイタッチをする割合は10人に1人程度。だが藤川さんは「むしろ『結構やってくれるんだな』とうれしいくらい」と手応えを感じている。池田さんも「都内だと全体の1~3%がいいところ」と続ける。いわく、勤務地に近いと会社の人に見られるという意識が働くが、ホームタウンだと気軽にやりやすいのだそうだ。
池田さんは最後に、こう話した。「ハイタッチをしなくても、『ばかな人がいたな』と思い出し、会社でくすっと笑うだけでもいい。とにかく少しでも笑顔になってくれれば」