今や新車販売の4割を占める、人気爆発中の軽。それを牽引するのがワゴンタイプだ。
8月25日には、なんと燃費32.4キロ/㍑!というワゴンRのハイブリッドが登場。超絶マイチェンでスズキが他社を突き放したかにみえるが、それによってますます覇権争いがヒートアップしそうなのだ。
まず、その歴史を振り返ってみよう。 軽といえば、最近までワゴンR(スズキ)などの「ハイトワゴン」が定番だった。初代ワゴンRが登場したのが1990年代半ば。そこから、ほんの3年前までの約15年間、「軽販売トップはワゴンR!」の時代がずっと続いてきた。
しかし、そんな「ワゴンR長期絶対政権」にもついに変調が訪れる。2011年のことだ。この年は9月にミラ イース(ダイハツ)が、年末にN-BOX(ホンダ)が発売された。
翌12年の年間販売台数でワゴンRは王座から陥落(ミラがトップ)。さらに今度はスーパーハイト(全高1.7m台)のN-BOXが月間トップに居座るようになり、昨年は軽年間王者に輝いている。
現在、ハイトワゴン市場は、ワゴンR、ムーヴ(ダイハツ)、N-WGN(ホンダ)、デイズ/ekワゴン(NMKV)……の4台が争う。そして、各社のエンジニアに聞いても「なんだかんだいって、軽で最もバランスのいい商品はハイトワゴン」という思いはいまだ根強い。
日産と三菱の折半出資による合弁会社(NMKV)の第1弾もハイトワゴン(デイズ&ekワゴン)だったし、N-BOXがバカ売れしたホンダも、結局は先代フィットを大成功させたエースエンジニアのH氏を開発トップに据えて、N-WGNを発売するに至った。
しかし、ここ数ヵ月の軽トップは、最新スーパーハイトのタント(ダイハツ)が君臨中。2位以下はN-BOX、ワゴンR、デイズ(日産)、ハスラー(スズキ)、N-WGN、ミラ(=実質はミラ イース)……と、スーパーハイト、ハイトワゴン、ハッチバックがすべて入り乱れての超バトルロイヤル状態となっている。 そんな最近の軽バトルからは、ふたつの側面が見えてくる。ひとつは最近のトップ銘柄がタントやN-BOXであることからもわかる、「ハイトワゴン絶対時代の終焉(しゅうえん)」だ。
スズキにもスーパーハイトのスペーシアがあるが、販売台数ではホンダとダイハツに大きく水をあけられている。スズキのスーパーハイトには、初代のパレット(2008年)があるが、2代目タントの「子育てママ路線」に勝てなかった。その反省をもとに、子育て路線を押し出したスペーシア(2013年)を発売したのだが、スーパーハイトの主流はすでにN-BOXの「マイルドヤンキー路線」に移ってしまっていた……。
もうひとつが「日産デイズシリーズの健闘」(全軽自協の発表値は、デイズルークスとの合計なので単純比較はできないが)だ。しかし、それによって日産と三菱の間で不協和音が生まれているようだ。
8月23日付の読売新聞に「『提携の成功例』だった軽で溝……日産と三菱自」という記事が出た。NMKVの軽はすべてを三菱が生産するが、日産のゴーンCEOが最近「ウチの分は日産の工場で作らせろ!」と言い始めたというのだ。
NMKVという会社には商品企画(と販売や宣伝担当者など)しかいない。クルマを実際に設計開発して生産するメーカー本来の仕事は、すべて三菱が請け負うカタチになっている。
そのNMKVが手がけるデイズシリーズの販売台数は、昨年6月の発売から約1年で累計15万台を達成。スズキから供給されているモコも含めると、日産の軽販売はすでに年間20万台レベルだ。日産全体の国内販売は昨年実績で70万台を切っているから、もはや日産の国内販売は、3分の1近くを軽が占めることになる。
一方で最近の日産は海外生産を推進しているから、ゴーンさん得意の経営公約(コミットメント)にある「年間国内生産100万台」を維持するには「軽にすがるしかない」のが現実なのだろう。
話を戻すと、かつての絶対王者ワゴンRも、最近は軽販売の3位あたりに低迷(?)しているのが現状。今回のハイブリッドでマイチェンし、確かにハイトワゴンぶっちぎり燃費、その他の装備も大充実!の力作なのだが、それで軽トップ奪還が果たせるかは微妙。
混沌バトルロイヤル状態での長期政権は至難で、4社が入り乱れての、くんずほぐれつ予測不能の大バトル時代。1年後どころか、2ヵ月後すらマジで予測がつかないのだ。
(取材/佐野弘宗)