独ダイムラーのブランド、メルセデス・ベンツは、2017年までに10種類のプラグイ ン・ハイブリッド電気自動車(PHEV)を市場に投入する予定だという。独BMWも近々に5車種のPHEVを投入する計画で、独フォルクスワーゲン (VW)は今年中にPHEVのゴルフGTEを発売するほか、将来的には全車種にPHEVを用意する。ヨーロッパ勢の主力であるドイツは、PHEVに全力を 傾けるつもりだ。
メルセデス・ベンツは昨秋、最上級車のSクラスにPHEVを投入した。日本名はS550プラグインハイブリッド車だ。今秋には、CクラスにもPHEVを投入する。しかも、C350のセダンとワゴンの2車種である。
ゴルフGTEに搭載する1.4リッター・ターボエンジンの最高出力は102馬力で、モーターと合わせると204馬力近くになる。しかも最大トルクは35.7kgm(キログラムメートル)と、国産3リッター車並みだ。VWの最強GTといってもよい。
一方、C350 PHEVも負けてはいない。最高出力は2リッター・ターボエンジンとモーターを合わせたシステム出力で279馬力、最大システムトルクは61kgmである。しかし、そんな高出力で燃費が悪化することはないのだろうか。
ゴルフGTEの燃費は新欧州ドライビングサイクルの基準で、なんとリッター66.7kmである。C350 PHEVは同リッター47.6kmである。あまりの燃費に驚く人も多いかもしれない。そればかりか、CO2排出量も少ない。ゴルフGTEは 34.8g/km、C350 PHEVは48.7g/kmである。
ちなみに20年のEUのCO2規制値は95g/km、25年の規制案は70g/kmである。PHEVであれば、なんと25年の厳しいCO2規制も前倒しでクリアできる。ということは、EUではすべてPHEVにすればCO2規制を難なくクリアできるのである。
では、PHEVは次世代の主力車になるのだろうか。
●PHEVは非常電源としても重宝する
本格的なPHEVとして世界で最初に登場したのは、三菱自動車工業のアウトランダーPHEVといってよいだろう。国内だけではなくヨーロッパでも販売は好 調で、特にオランダでは全カテゴリーの中でトップの販売台数を競うほどだ。果たして、アウトランダーPHEVのどこが気に入られたのだろうか。
PHEVあるいはPHV(プラグインハイブリッド自動車)は、簡単にいうと外部の電源からも充電できるハイブリッド車である。特徴は、ハイブリッド車の良 さと電気自動車の良さを併せ持つことだ。これは、言い換えればハイブリッド車の欠点を電気自動車で補う、あるいは電気自動車の弱点をハイブリッド車で補う ものだ。
動力系の構造は、エンジンとモーター、発電機、そして電池である。これはハイブリッド車と同じだ。ただし、搭載している電池の容量がハイブリッド車に比べてずっと大きい。
例えば、プリウスの電池容量は1.3kWh(キロワット時)で、これに対してアウトランダーPHEVは12kWhと約9倍だ。ちなみにアウトランダー PHEVの12kWhという電池の電気容量は、1000ワットのドライヤーならば12時間、60ワットの蛍光灯ならば200時間使えるという容量である。
この大きな電気容量を生かして、アウトランダーPHEVはエンジンを停止したまま電池だけでおよそ50km走れる。また、災害時の非常電源やアウトドアライフの電源として使うことができ、人気を呼んでいる。
一般的な家庭の一日の平均電気消費量は、およそ8kWhである。アウトランダーPHEVの電池が満充電であれば、非常時にこの電池だけでおよそ一日半使えることになる。
災害時の電力の復旧に要する日数はガスや水道よりも早く、およそ3日である。節約して一日4kWhに抑えればアウトランダーPHEVだけの電気で3日もつ。あるいは、隣家と電気を分け合っても、2軒で1日半使える。
さらに、アウトランダーにガソリンが残っていれば、それで充電することでさらに電気を使える日数が増える。アウトランダーPHEVは、自宅のコンセント で、あるいは街中の普通充電器、急速充電器で充電できるほかに、走行中・停車中にかかわらず自らのエンジンでも充電できるのだ。ここがハイブリッド車と大 きく違う点である。
・電池の電気だけで長く走れるので、環境に優しく、維持費(燃料代)が安い
・非常時やアウトドアで電気が使えて便利
・自宅はもちろん、いろいろな充電施設で充電が可能
・ガソリンがあれば走れるので、電気自動車のような電欠の心配がない
このような利便性とメリットがあるので、大方の予想では、ハイブリッド車の時代は終わって、しばらくはPHEVの時代が続くという見方が大勢を占める。しかし、本当だろうか。
実はEUの場合は、こうした利便性やメリットもあるが、もっと深刻な問題からPHEVへの移行が進んでいるのだ。そして、EU政府はPHEVの振興策として、とんでもないインセンティブを用意している。それは次回以降に深く掘り下げていきたい。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)