サラリーマンの憩いの場、居酒屋が大変なことになっている。飲み物や食べ物がすべて200~300円台均一という店が相次いで登場。「あっちが280円均一なら、うちは270円均一」と熱い激安戦争を繰り広げている。日本有数の居酒屋激戦区、東京・渋谷を歩いて、「安さの秘密」を探った。
若者でにぎわう東京・渋谷のセンター街。周辺には居酒屋約20店がひしめきあい、日々しのぎを削っている。そのなかの1つ、「金の蔵Jr.」はお酒もおつまみも270円均一なのがウリ。270円は税別の料金で、税込みにすると284円均一ということになる。
「全品270円」という大きな看板につられて店内に入ると、20代前半ぐらいの客が目につく。席につくと、テーブルのうえにはカラオケボックスで見かけるようなタッチパネル式の端末が置かれていた。
端末を操作して注文を出し、しばらくすると、店員さんが運んできてくれる。1人さびしく生ビール2杯、焼き鳥、冷ややっこなど計6品をいただき約1700円ナリ。1000円札2枚でおつりが返ってくるのはありがたかった。
「金の蔵Jr.」を運営する三光マーケティングフーズは安さの秘密を次のように説明する。
「注文は各テーブルに設置したタッチパネル式の端末でしてもらい、支払いもレジにカードを持っていくだけの方式で効率化を図り、270円均一という価格を実現しています」(社長室)
センター街の周辺にはこのほか、モンテローザが運営する284円均一(税込み)の「美食厨房白木屋」、全品280円(税別)の焼き鳥屋「鳥貴族」、コロワイドが運営している299円均一(税別)の「うまいもん酒場えこひいき」などがせめぎ合っている。
各社とも全国展開するチェーン店のため、食材などを大量に安い価格で仕入れることができ、人件費を削る工夫をしているため、こうした商売ができる。
客単価をみると、一般の居酒屋が3500円前後なのに対して、均一価格店は2000円弱。各社とも「まだ需要は伸びる」と出店攻勢を強める構えだ。
ちなみに、均一価格の居酒屋は商人の街、大阪で誕生した。1986年に「鳥貴族」が東大阪市に280円均一の1号店を出したのが始まりで、2005年に東京に進出してきた。
その後、08年秋のリーマン・ショックを契機に消費者の低価格志向が強まり、大手居酒屋チェーンもこぞって参入、一大ブームになった。
発祥の地である大阪では早くから安い均一価格店が展開され、繁華街のミナミ周辺ではパイオニアの「鳥貴族」がナンバ店、千日前店、道頓堀店など15店を構える。
均一価格店を高く評価するのは、経済アナリストの森永卓郎獨協大教授(53)。「食材の質を落とさず、調理の手間を極限まで簡略化し、人件費削減などで低価格を実現している。コストパフォーマンスは非常に高い」という。
「激戦区の渋谷は学生の街ですが、今の学生は経済的に苦しい。不況で親の財力が低下し自ら学費を払うケースも多く、とても居酒屋で3000円以上出せない。そのため、低価格で会計のはっきりした均一価格の店がウケている。デフレが続く限りこうした店は増え続けるでしょう」
居酒屋激安戦争はますますヒートアップしていきそうだ。