1992年の開園以来18年連続で赤字だった長崎県佐世保市の大型テーマパーク「ハウステンボス」(HTB)が、格安旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の支援で、わずか半年で約3億円の黒字に転換した。佐世保に居を構え、HTB社長に専念する澤田秀雄HIS会長の手腕は見事だ。とはいえ、内実は固定資産税免除と販売管理費の大幅カットなど「出ずるを制した」黒字化。「入るを図る」本業の立て直しは、これからだ。
HTBは今年4月、HIS傘下に入ったばかりだが、4~6月期で早くも1億7千万円の最終黒字を計上。7~9月も好天が幸いし、初決算となる10年9月期(決算月変更で変則6カ月)も3億円程度の最終黒字となった。
黒字化の要因は三つある。1番目はカネをかけずに打ち出した多彩なイベント、コンテンツの集客効果。例えば、7月に開設したお化け屋敷は、不採算のため閉鎖した美術館を改装したもの。フジテレビと組み、同局の人気アニメ番組「ワンピース」の体験型施設も開設したが、費用の約3割はフジに分担させた。新機軸の「ハロウィーンのカボチャの山車」も、他の出し物の使い回しだ。
2番目は入場料の値下げ。約80ヘクタールの敷地のうち2割を無料開放し、残りの8割(オランダの街並み再現ゾーン)の入場料も大人3200円を 2500円に、午後5時以降は大人2千円を1千円に引き下げた。澤田氏は「極端にいえば、入場料はタダでもいい」という考えで、たくさんの顧客に何度も足を運んでもらい、飲食や買い物で稼ぐ作戦だ。今年4~9月の入場者数は86万5千人と前年同期比17.2%も増えた。特にかき入れ時の夏休み期間(7月 17日~8月31日)の入場者数は同38%増の34万5千人に達した。
3番目の要因は、徹底的な経費節減。販売管理費を4~6月期で前年同期比25%、6億5千万円削減した。主に施設の減損処理によって減価償却費を2 億円ほど圧縮し、昨年7月の人員削減で2億5千万円程度削った。そして「出ずるを制す」の最たるものが免税だ。HTBの再建を引き受ける見返りに、地元・佐世保市から年間8億8千万円の固定資産税相当分を向こう10年間、「再生支援交付金」として受け取る恩恵を得た。
澤田氏はHTB再建を懇請した九州財界にも、しっかり支援を要請。福岡銀行など債権者から8割もの債権放棄の協力を仰ぎ、債務返済負担を軽減した。澤田氏は老獪だ。今年2月、HISが開いたHTB支援決定の記者会見で「3年後には黒字化したい」と述べた。つまり「1年目と2年目の黒字転換は無理」と主張。しかも、「3年後に大幅な赤字が続くようなら撤退する」という条件までつけ、再建の道のりが極めて険しいことを印象づけたのだ。これが佐世保市の年 8億8千万円、10年間という破格の免税措置に結びついた。九州財界も10億円の出資を呑み、「地元企業を優先せず」というHISが突き付けた厳しい取引先見直しも黙認せざるを得なかった。
中国人の訪日観光ビザの緩和など幸運にも恵まれたが、澤田氏の卓抜した経営能力は誰もが認めるところ。再生支援交付金は税金であり、「黒字企業に 10年も出し続ける必要があるのか」という疑問もわくが、佐世保市の朝長則男市長は「再生支援交付金は澤田氏との約束。経営が軌道に乗るまでは続けたい」と協力的だ。市議会の浦日出男議長も「これを機に雇用がどんどん増えれば、市民の理解も得やすくなる」と期待する。
果たして本業は回復するのか。一番の不安材料は客単価の下落だ。8月の客単価は前年同月比4%減の6580円だった。4~9月は経費節減と値下げとイベント・コンテンツの改善で入場者数が伸びたため、単価下落をカバーできた。けれども大都市圏から遠いHTBが入場者数を増やし続けるのは至難の業だ。澤田氏の言う「滞在時間を伸ばし、園内での飲食、買い物で稼ぐ」戦略には、イベント・コンテンツの絶え間ない更新が必要となる。さしあたり来年度はアジア最大級のアウトレットモールの誘致や、HISによる中国・上海~HTB間のフェリー航路新設が見込まれるが、その先が「澤田マジック」の見せ場だろう。
(月刊『FACTA』2010年11月号、10月20日発行)