バナナの高付加価値化が止まらない背景とは

今、バナナの消費量が伸びている。バナナといえば、いつでもどこでも気軽に手に入るフルーツの代名詞であり、青果店やスーパーだけではなく、コンビニやスターバックスでも手に入る品だ。総務省が「家計調査」で発表している「生鮮果実1人1年当たりの購入数量」をみると、1993年には32.7キロだったが、2017年には25.2キロまで減少している。一方、バナナは、1993年には4.4キロだった購入数量が、2017年には6.2キロまで増えている。増えた分の1.8キロは具体的にどのくらいあるのか。中くらいのサイズのバナナ1本を150グラムとすると、12本分である。24年間で、月1本、バナナの消費量が増えていることになる。

【画像】賞味期限が20分のバナナジュースを売るそんなバナナ

 同調査によれば、果実の国内需要の中でも生鮮用として消費される438万7000トンのうちの96万トン、つまり約20%程度がバナナとされている。日本で最も食べられている果物なのだ。その消費量の99.9%が輸入品であるにもかかわらず、バナナは「日本の国民食」と表現しても過言ではない状況だ。

 それでは、現在、“バナナの世界”で何が起こっているのか? バナナを取り巻く現状を解説したいと思う。バナナ専門店が増えている

 まずは、驚くべき2つの現象をお伝えしたい。

 1つ目は、バナナ専門店の増加だ。東京をはじめとして、関西や地方にも増えている。その中でも代表的な店舗を紹介したい。

 東京・八丁堀にある「sonna banana(そんなバナナ)」では、賞味期限が20分のバナナジュースが注目を集めている。みなさんも経験があると思うが、バナナは皮をむくまでは日持ちするが、いざむいてしまうと、すぐに黒く変色し、味も変化する。意外とデリケートな果物である。そのバナナを最もおいしい状態で楽しませてくれるのがこのバナナジュース。なんとも言えない濃厚なジュースはバナナと牛乳以外、何も使用していない。牛乳の分量も、バナナそのものを味わってもらうため、最小限。ストローで吸うのも一苦労なほど、ぽってり濃厚なのである。まさに、バナナジュース専門店ならではの自信作である。

 その他にも、「国産バナナ研究所」や「クラムスバナナ」など、バナナジュースの専門店が続々とオープンして人気となっている。昨今、バナナに限らず、専門店がブームとなっている。その背景は何だろうか。

 “専門店化”とは、外食の世界では重要な差別化戦略といえる。外食業界は、中食・内食との戦いを強いられている。そんな状況で、あえて「外食する」という行為を選択してもらい、たくさんある中から自分のお店を選択してもらうには、わざわざそのお店に行ってでも食べたいと思えるメニューの存在が必要だ。“一点特化”の食材をPRすることで、明確なターゲット設定・明確なブランディングができる。また、そのお店でしか味わえないエッジの効いた逸品を提供することで、評判が評判を呼び、お店が繁盛するのである。「賞味期限20分」で、吸うのに一苦労するバナナジュースも、その代表格といえるだろう。

バナナの高額化

 2つ目はバナナの高額化だ。

 みなさんは、バナナの値段についてどんなイメージをお持ちだろうか。おそらく、3~5本がセットになった房で100~300円程度だろう。しかし、今、そのバナナの常識を覆すような、恐ろしいほどの高級バナナが出現しているのだ。

 筆者がそのバナナに出会ったのは、偶然である。とあるホームパーティーに参加したところ、バナナを手土産に持ち込むつわものがいたのだ。「デザートにバナナとは、また古風な……」と思った。しかし、テーブルに提供されたのは、おそらく私の人生の中で最も丁寧に扱われているであろうバナナだった。皮ごと食べられるということで、1本のバナナを輪切りにし、まるでロールケーキを食べるように口にした。

 バナナは前述した通り、99.9%が輸入品であり、長期保存されるため、皮を食べることは避けたほうがよいとされている。しかし、目の前にあった高級バナナは、国産(宮崎県産)で、無農薬で生産されており、皮ごと食べられるのだ。これだけでも驚きだが、このバナナの値段を聞いてさらに驚愕したことを覚えている。品によってばらつきはあるものの、1本1000~2000円。通常の20倍以上もするのである。国産でかなり希少価値の高い品であるため、その値段にも納得できるが、バナナの常識を覆したことは間違いない。

 バナナの味はどうだったか。今まで食べたバナナより、ねっとりと甘く、糖度が高い。通常の輸入バナナの糖度が15度程度なのに対し、この高級バナナは22度とのこと。その甘味は、デザートとして十分に楽しめる逸品である。果物の栄養素は中身だけでなく皮にもあるといわれている。それはバナナも同様であり、ビタミンAや食物繊維など、美容や健康によいとされているものが皮に凝縮されている。「皮まで食べられるバナナ」――なんともキャッチーだが、話題性だけではなく、栄養価が高いという実益も兼ねたものなのである。

 これは個人的な意見であるが、皮はそのまま食べてもさほどおいしくない。やはり、皮をむいて食べたほうが、バナナのねっとりとした濃厚な甘みを楽しめる。皮は、いためたり焼いたり、擦ってパンケーキなどに混ぜ込んだりして、その栄養価を丸ごと享受することをおすすめしたい。

バナナはいかに日本に根付いたか

 バナナの歴史を振り返ってみよう。

 バナナは、日清戦争が終結してから8年後の1903年、台湾から日本に持ち込まれたとされている。舶来品であるため、希少価値の高い果物という位置付けが第二次世界大戦後まで続いた。

 1963年、バナナの輸入が自由化された。今や輸入バナナの90%以上を占めるフィリピン産のバナナが日本に入ってきて、誰でも気軽に買える果物となった。戦後しばらく、バナナは高級フルーツの代名詞であった。病院のお見舞い時に持参するものといった位置付けで、価値の高い果物であったが、安価なものが手に入るにつれ、そのポジションをメロンなど他の高級果物に奪われた。

 いちご、みかん、ぶどう、りんご、桃といったもともと日本で収穫されていた安価なフルーツを、高付加価値商品として売り出す例もみられるようになった。例えば「ビュッフェのいちご祭り」「丸ごと〇〇」「桐の箱に入った高級ブドウやリンゴ」といった具合だ。こういった商品の中には人気が出るものもあり、バナナの出遅れ感は否めない。

 安価なフルーツの中でも“高級化”に出遅れたバナナ。この要因は、バナナが南国のフルーツであり、国産が極めて少なかったからであろうか? いまだに、消費量の99.9%が輸入品であり、国産と言えば前述した高級バナナや、小笠原諸島や沖縄といった極めて南国に近いエリアで自然栽培されている島バナナのみとなっているのである。

 そして、2006年にはバナナダイエットがブームに。朝食にバナナを食べるとダイエット効果があるとされ、一世を風靡(ふうび)した“バナナ”。

 もし、この“バナナ日本上陸”と“バナナダイエット”をブームと呼んで差し支えないのならば、今のバナナブームを「第3次バナナブーム」と名付けることができるのではないだろうか?なぜ、バナナが流行しているのか?

 でな、なぜ、こんなにもバナナが注目されているだろうか?

 元来、バナナは日本人に愛されている果物である。ただあまりにも身近過ぎてブームとはほど遠いものであった。だが、バナナは安価で、いつでも手に入る。手軽に栄養が取れることはもちろんのこと、果物の中でも、特に持ち歩きやすく、いつでもどこでも食べられ、手が汚れないことが魅力だ。いまやコンビニでも、スターバックスにもバナナがあり、しかも昨今の個食化に伴い1本売りも主流となっている。量販店ではバナナケースも販売されており、女性の間で「かわいい」と人気を集めている。

 昨今バナナブームが起こった背景にあるのは、専門店の登場に加え、人気テレビ番組でバナナが取り上げられたことが大きな要因である。しかし、バナナは、前述した要素以外にもブームになるポテンシャルを秘めていたのである。その3つの要素について解説したい。

 1つ目は、ブームになる要素として重要なキーワードである“効果・効能”である。健康・ダイエットなど、食べることで消費者に何らかのメリットがある(または、ありそうな)こと。これは食のブームにおいて欠かせない要素だ。バナナは、なんといっても栄養価が高い果物だ。そして、栄養価が高いだけではなく、ヘルシーデザートとしても楽しめる。完熟したバナナは、砂糖を使わなくてもとろりと甘い。ダイエット中だとケーキを食べるのをためらってしまうが、バナナや濃厚バナナジュースに置き換えることもできる。

 そして、2つ目の要素は“付加価値がつけやすい”ことである。安価なものから高級品まで存在しており、アレンジしやすいこともブームを起こしやすい要素だ。バナナジュース1つとっても、チョコバナナ、きなこバナナ、ミックスジュースなどさまざまなアレンジが可能だし、1本2000円のバナナや賞味期限20分のバナナジュースなど、意外性の高いものも受けている。

 そして、3つ目は、“SNS映え”である。もう聞きなれた要素ではあるが、決して忘れてはいけない。今まで、存在が当たり前すぎて注目を浴びなかったバナナが、専門店化されている。この一点特化型店舗は話題性があり、SNSで取り上げられやすい。トレンド作りの勝ち筋の1つだ。さらにバナナ自体が、SNS拡散されやすい要素を兼ね備えている。まず、バナナの黄色は映える。そして片手で持てることで、左手にバナナジュース、右手にスマホ。物撮りも、飲んでいる自分の自撮りも簡単にできるのだ。同じようにタピオカミルクティも、気軽に投稿できたことが広く拡散された要因の1つであると考えている。

 このように、ブームとなったバナナ。今後、どのような展開を見せるのであろうか? 勝手ながら占ってみたいと思う。

タイトルとURLをコピーしました